パラレル4

九戸政景

読み切り

 パラレルワールド、それは並行世界とも言われている物で、元となる世界から派生し、並行して存在している世界なのだという。

正直、そんな物は存在しておらず、小説や映画の中の出来事だと思っていた。そもそもそんな物があっても確認すら出来ないし、自分の人生に関わってくるわけがないとすら考えていた。けれど、その考えを改める時が来てしまったのだ。


「……はあ、ほんとどういう事なんだよ……」


 リビングに置かれたソファーに座りながらため息をついていた時、俺の肩にポンと何かが置かれ、背後から落ち着いた声が聞こえてきた。


「一号、悩みか? 悩みなら打ち明けてくれ」

「……その悩みの種が言うなよ。というか、三号と四号はどうしたんだ?」

「三号と四号は買い物に行った。まあ、変な目で見られる事は無いだろう。何も知らなかったら、ただの仲の良い女子二人にしか見えないからな」

「……そうだな」

「一号はどうする? 俺は少し家の中を片付けようと思う」

「……それじゃあ俺も手伝うよ、二号。ただ座って考えてるよりもその方が良さそうだしな」

「わかった」


 二号が変わらず落ち着いた様子で言った後、俺は小さくため息をついてから立ち上がった。俺が二号と呼んだ存在。それは俺がいないと考えていた並行世界の俺の内の一人だ。

二号は顔こそ俺とそっくりで性別も同じだが、小さい頃から筋トレを欠かさずに行なっていてずっと運動部だった分なのかガッチリとした体格をしており、性格も寡黙な方なため、そこで俺と二号を区別する事が出来る。

ただ、少し天然なところがあり、こっちの質問に対してよくわからない回答をする事があるため、その度に俺はさっきみたいにため息をつく事になっている。

そして、話に出てきた三号と四号も並行世界の俺なんだが、その二人だけは性別や顔の感じも異なっていて、特に四号は内気で気弱な性格なところがある上に何故か男性恐怖症なため、俺と二号からはあまり近づかず、同性である三号が一緒にいる事が多いのだ。


 ……ほんとにいつまでこの生活が続くんだろう。別に望んだわけじゃないのにこんな生活を送る事になったわけだし、早く三人とも元の世界に帰れば良いのに……。


 この生活をする中でこれまでに起きてきた出来事を思い返しながら本日何度目かのため息をついていると、目の前に回ってきていた二号が俺の顔を見て首を傾げる。


「一号、また悩みか?」

「だから、悩みの種はお前らなんだって……二号はこの生活が嫌じゃないのか? 突然わけもわからずにこっちに飛ばされてきて、帰るための方法も飛ばされてきた理由もわからない状態なのは俺だったら不安で仕方ないし、早く帰りたいと思うぞ?」

「俺も何もわかっていないこの状況をよくは思っていない。だが、焦ったところで何も解決しない。それに、並行世界の俺に会える機会なんて中々無いから、俺はこの生活を楽しむと決めたんだ」

「楽しむ、か……俺には無理だな」

「そうか。それも考えの一つだから仕方ないだろう。それに、三号と四号も恐らく楽しむよりも早く帰りたいと思っている気はする」

「そうだろうな。男性恐怖症の四号からしたら同性の三号がいたとしても俺達の存在は明らかにストレスだし、三号も別に俺達に対して好意的じゃない。受け答えはしてくれるけど、お前と違って俺は三号とはあまり相性が良くないみたいだしな」


 三号は明るく活発な性格で真逆な性格の四号の相手をよくしているが、初対面の頃から俺とはどうにも反りが合わなかった。そのため、俺と三号の間での喧嘩も珍しくなく、四号があわあわとしている間に二号が仲裁をしてくれるのがいつものパターンだ。


「一号の事が好きで照れ隠しからそうしてる可能性もあるんじゃないか?」

「ないよ。そもそも異性で見た目も違うといっても並行世界の同一人物なんだからそういう目で見てるなんてあるわけない」

「そうなのか?」

「そうなのかって、むしろどうしてそう考えられるんだよ……」

「恋愛的な好きではないかもしれないが、少なくとも本当に一号を嫌っているなら、この家から出ていってると思わないか?」

「え……?」

「並行世界に来ている分、ここ以外で暮らそうとするのは愚策だ。事情を知ってるのは今のところ俺達だけで並行世界から来たと言っても誰も信じないだろうからな。

けれど、彼女は嫌なら嫌だとハッキリ言う性格なのはわかっているし、何かを強いられるのも苦手そうだ。それなら並行世界から来たとどうにか誰かに信じてもらおうとし、その人を頼ってここを出ていく事を考えても不思議じゃない。当然、四号も連れてな」

「二号……」


 二号の言葉を聞きながらこれまでの三号の言動を思い返していると、二号は俺の両肩に手を置きながら優しく微笑んだ。


「俺は一号がいてくれて助かってる。そしてそれは三号と四号も同じだろう。並行世界の存在とはいえ、一号がこの家の主人だから俺達を放り出す権利もある中でちゃんと住まわせてくれてるからな」

「…………」

「もちろん、早くそれぞれの世界に帰れるように努力しよう。一号が元の生活に戻りたいと思っているのは知っているからな」

「……そうだな。こんなによくわからない状況になった上に並行世界の俺と暮らさないといけないのは正直ストレスだ」

「…………」

「けど、こうなった以上は俺もちゃんとやる。どうせ俺にはもう一緒に暮らす家族なんていないし、血の繋がりなんて月に一度仕送りをしてくれるだけの親戚くらいだからな。とことんお前らの面倒を見てやるさ」

「ありがとう、一号。お前には本当に感謝している」

「どういたしまして」


 二号の言葉に返事をしていたその時、玄関のドアが開く音が聞こえ、それと同時にこちらへ向かって歩いてくる二人分の足音が聞こえてくると、リビングに外出から帰ってきた三号と四号が入ってきた。


「ただいま、二人とも」

「た……ただいま、戻りました」

「おかえり、三号、四号」

「おかえり、二人とも。何の買い物に行ってきたんだ?」

「ちょっと小物や服を見てきただけ。色々欲しいなと思う物はあったけど、こうして四人でいなきゃない分、そこは我慢してきたの。そうじゃないと、小うるさい一号がガミガミ言いそうだったし」

「小うるさいのはそっちだろ、三号。食事やごみ捨ての当番制は良いとして、風呂の順番なんてどうでも良いだろ」

「関係あるから言ってるの。まったく……こんなデリカシーのない男が並行世界の私だなんて本当に信じられない」

「……なんだと?」

「なによ……」


 そろそろ三号の言葉にイラッとした俺に三号が対抗しようとし、その姿を見た四号が俺達を見ながらあわあわとする中、二号は落ち着いた様子でにこりと笑った。

これまでいるなんて思っていなかった並行世界の自分との共同生活。そんな物語の中くらいでしか聞かない状況に放り込まれた理由はわからないし、いつまでこの生活を続けないといけないかも見当はつかない。

けど、三人の存在のおかげで一人きりの乾ききった灰色の人生に潤いと色がもたらされたのは間違いない。だから、二号にも言ったようにこうなった以上は最後まで面倒を見よう。俺達は一人として欠けてはいけない存在なのだから。

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パラレル4 九戸政景 @2012712

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