第10話 「兄」の妄想スイッチ


★「おしゃれ」「お母さん」→マンモス白珊瑚の森に住む。おしゃれ金平糖ウミウシ。

★「いちご」→船形石珊瑚に住む「おしゃれ」の心友。いちごジャムウミウシ。

★「兄」→マンモス白珊瑚の森に住む14匹の魚たちの長男。青くて大きめの魚。過度の心配性の特徴あり。

★「妹」→マンモス白珊瑚の森に住む14匹の魚たちの末っ子。オレンジ色の小さな魚。しっかり者の性分。



「いちご」だけが知っている、《星の船》の正体とは、いったい何だろうか?

「兄」はみんなが寝静まった白珊瑚の森の中で、じっとうつむきながら考えていた。


なかなか眠れそうにない。

明日の夜になったら、またおいで。と、「いちご」さんは言っていたけれど……。

この先、何がどうなっていくのか、想像することさえできなかった。

さっきから背ビレに小粒の空気が房になってまとわりついてくる。


「兄」は、白珊瑚の森に住む13匹の兄弟たちから、《心配がりや兄さん》というあだ名をつけられている。何しろ「兄」は、何かにつけ心配したがる魚なんだ。と、兄弟の誰もがあきれている。「兄」の心配は、ありとあらゆる妄想を呼び込む。


やがて、妄想はとてもなく膨れ上がり、あげくの果てには、生命の根源的なパワーまでを使い果たしてしまい、死んだようにぐったりとする。

そんな「兄」の姿を見るのを忍びないとは、もう誰も思わなくなってしまった。


それだけいつも、のことだったからだ。


「兄」は、もう泳ぐこともできなくなり、斜めになって海中をふわふわと彷徨(さまよ)っている状態から、自力で生還することができる。

何という面白い特技だろうか。仕組みは簡単だった。妄想スイッチをそのまま押し続けるのだ。


「兄」には、心配の原因の渦中に飛び込んでいくことが、なぜだか好きな所があった。昔からそうだった。人間が船の下に引きずっていく大きな網に追われている魚たちを見て、なんとかしなきゃ、とその中に飛び込んで行き、あやうく海面の上まで引き上げられ捕まりそうになり、青ざめた顔をして命からがら逃げてきたこともある。



〈続く〉

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