第13話 【閑話】 勇者からは逃げられない。 いや逃げる。




「リヒトお前ふざけた事してくれたな!」


ヤバい…何でガイアが追ってくるんだよ…


魔王城目指して北に進むガイア、それに対して俺たちは南へ進んできた。


本来ならもう会う筈はないのだが…


一応、気配を察したマリアには隠れてもらった。


「あはははっガイア、怒ったりして一体どうしたんだい? エルザにリタは元気かな?」


「元気は元気だが…その件も合わせて話がある」


なんだか雲行きが可笑しくなってきたな。


もしかして…マリアの事は問題ないのか?


「お前、俺との約束を忘れたのか?」


うん…身に覚えが無いな…なんだ。


「余り覚えがないんだが…何か重要な約束をしたか?」


「お前ふざけんなよ!『あのさぁ、もし三人をくれたら、エルフかダークエルフの美女奴隷をやるって言ったらくれたりするのか?』お前は俺にそう言ったよな?」


「確かに言ったけど、確か返事は『くれてやっても良い』だったよな」


「ああ、そうだ俺は『くれてやっても良い』そう言ったんだ」


「それがどうしたって言うんだ?」


「お前らが居なくなってからな、依頼は上手くいかないし教会からも凄く嫌味を言われる様になったんだ…凄く風当たりが酷いんだ」


まぁそれは俺のせいだ…貴重なエリクサールで治療した聖女を追放したらそりゃ厳しくもなる…まぁ言わないけどな。


「大変だな…」


「まぁな…それで、つい売り言葉に買い言葉でな教会と揉めた時に『やってらんねーっ勇者なんて辞めてやる』っていっちまったんだ」


此奴何やってんの、あんな恵まれた環境捨てるなんて。


「直ぐに謝ったんだよな? それで教会は?」


「『他にも勇者は居ますからどうぞ』って言いやがった」


いや基本…勇者大好き軍団の教会が怒るなんて、何やったんだ此奴。


「お前、何やったんだ…普通は教会はそんな事言わない」


マリアの為にエリクサールを寄越すような組織が、そんな事言う訳がないだろう。


「大した事言ってねーよ…ただ、エルフの奴隷が欲しいから金をくれ…そう言っただけだ」


「そりゃ普通に怒るだろう! 一応建前上は教会は博愛主義なんだから」


まぁ、裏で『勇者絶対主義者』の司祭あたりと話せば『仕方ないですね』とくれるかも知れないけどな。



「なぁ、リヒト…お前が間に入っていた時には、もう少し融通が利いた気がするんだが…」


「確かに上手く交渉はしていたけど、流石にエルフの奴隷はないわ…ガイアが勇者じゃ無くなったのは解ったが…どうしたいんだ? それと俺にどんな用があるんだ?」


何となく解かるが…マリアが怖いから無理だ。


「話は戻すがよ…約束したじゃないか? 幼馴染をやったらエルフの奴隷を買ってくれるんだろう…残り二人もやるから…買ってくれよ…なぁ頼む…この通りだ」


「ちょっと止めろよな…」


いきなり往来で土下座は止めて欲しい。


少し離れてマリアがこっそり見ている。


話までは聞こえてないだろう。


「ガイア、二人をくれるというが、奴隷になんて出来る訳ないだろう? まして今のお前は勇者ですらないんだからな…諦めろよ」


「駄目なんだ…本当に初恋なんだ、親友だろう? 幼馴染だろう?どうにかしてくれよ…なぁ頼むよ」


仕方ないな…俺がマリアを連れ出して更に交渉をしなかったからこうなったんだよな…


「それで幾らなんだよ…」


「金貨300枚だ」


おい…俺は金貨20枚渡したよな…少しはだせるだろう。


「俺は足りない分の事を言っているんだ、前に金貨20枚やっただろう?」


「そのお金は使ってしまって無い」


まさか、あのまま通い詰めたのか?


「仕方ない…その金は貸してやる…ただその借金が返せるまで俺やマリアの前に顔を出すなよ」


「解った…俺はちゃんと約束は守る男だ」


俺はガイアにお金をやった気で金貨300枚を渡した。


◆◆◆


「どうしたのです? ガイアもリヒトも様子が可笑しいですわ」


俺は今までの経緯を伝えた。


「そんな大金勿体ないですわ」


「まぁ返せないから恐らくもう来ないだろう…結果的にマリアも引き抜いちゃったし手切れ金として…まぁ仕方ないよ」


「そうですわね…これで終わりと考えたら仕方ありませんわ」


だが…これで話は終わらなかった。


◆◆◆


それから旅を続けて4か月がたった。


マリアと一緒に宿屋に居るとお客が来たと受付から声が掛かった。


訪ねてくる存在なんて居ない筈だ。


誰だろう?


「リヒト様で間違い無いですか?」


「はい…そうですが、どなたでしょうか?」


「私達は、王国奴隷商会の者です…ガイア様により奴隷を2匹お届けに参りました」


奴隷? ガイア…


「奴隷?」


「はい、こちらの奴隷でございます」


嘘だろう…


「リヒト…頼む助けてくれ…お願いだ…」


「リヒト…リヒト…お願い…助けて」


「てめえら勝手に喋るんじゃねー」


「ううっうわぁぁぁぁ」


「痛いよー――っ」


嘘だろう…


そこに居たのは変わり果てたエルザにリタだった。


だが、かっての面影は何処にも無い。


「これは一体どういう事ですか?」


「知りたいなら、彼女達の主人になる事ですな…私どもにも守秘義務がある…但し私達は国が認めた正規の奴隷商、非合法で無い事はお約束しましょう」


「リヒト…なんなのですか?これは、仮にも剣聖と賢者が可笑しいのですわ」


「なぁマリア、流石にこのままにはしておけないな」


「仕方ないですわ…奴隷ならよいですわ」


「それなら、血を頂きます…奴隷紋を刻みますので…」


俺が血を与えると奴隷紋を刻み奴隷商人は帰っていった。


帰り際に…


「そうそう、ガイア様から言づてです『壊れているがちゃんと約束は果たしたこれで借金はチャラな』だそうです」


そう言い捨てて。


◆◆◆


二人は立っているのも難しく、奴隷証人が去るとそのまま倒れ込んだ。


「マリア…俺が二人とも担いでいくから、部屋のドアを開けてくれ」


「解ったわ」


女性に対して酷い対応だが…すぐにボロキレの様な服を脱がした。


「うぷっ…これは酷い」


「これは本当に酷すぎますわ…本来なら私1人でと言いたい所ですが…リヒトにも手伝って貰いますわ」


体が汚いだけじゃなく体中に痣がある。


しかも…傷や痣以外にも虫が寄生していた…マダニか?


俺は数少ない贅沢で風呂がある部屋を借りている。


「マリア、此奴ら風呂場に運んで良いか?」


「汚いし、虫がたかっていますわ…呪文で傷は治せそうですから、虫を採って潰してから体を洗って欲しいのですわ…私は街で念の為ポーションを買ってきますわよ」


「了解」


◆◆◆


「うぷっ」油断をすると吐き気がしてくる。

2㎝位のマダニみたいな虫が百以上寄生していた。


どうすんだ…これ!


やるしか無いか…


余り体に良くないが、薄めた狩で使う毒を塗った。


すると豆みたいな虫がぽろぽろと落ちだした。


お湯を使って髪を洗ったが…此処には虱の様な虫が跳ねていた。


何だか自分の体も痒くなってきた気がしたが…我慢して髪を洗うが綺麗にならない。


虫以外にも何やら黄色い汚い物がこびりついていてお湯で溶かしてみると…


『うぷっおえぇぇぇぇー-』


これ男のあれじゃないか…


体をお湯で洗い流すと…お湯が糞尿の匂い…肥溜めの匂いに変わった。


めげずに何度も洗うとようやく、見れる位には綺麗になった。


だが、それでも匂いは消えない。


まだ気を失っている二人を抱っこしながら…ベッドに寝かす。


二人とも大きな傷が体に無数にある。


特に両手両足のケンが斬られた様な跡があった。


◆◆◆

マリアが帰ってきたが見た瞬間から匙を投げた。


「これは無理ですわね…凄く下手な治療で治療が終わってますわ…こんな雑な治療じゃ一生歩けませんわね、多分手も真面に動きませんわね」


「一体何があったんだ」


「体の傷から見ると、恐らくは慰み者にされて居たようですわね」


そんな、剣聖と賢者だぞ…


暫く見ていると二人は涙を流し嗚咽を漏らしていた。


◆◆◆


起きるのを待っていたら、まず目を覚ましたのはエルザだった。


「エルザ…何があったんだ」


「あああっあれは地獄だった本当に地獄だった、魔族より…人間の方が…クズだ、ガイアはああああああっクズだぁー――っ」


その声でリタが目を覚ました


「いあやぁぁぁぁー――っ、何でもいう事をききますから殴らないでいやぁぁぁぁー-っ」


二人が落ち着くのを待って…話を聞くことにした。


「あれは地獄だった」


「ガイアはクズだよ…」


ポツリポツリと二人は話し始める。


簡単に言うと、薬をガイアに盛られた挙句…両手両足の健を切られた状態で盗賊のアジトに放り込まれたそうだ。


そんな男ばかりがいる場所で逃げる事が出来ない女が放り込まれればどうなるか…最初は警戒していたが…その日のうちに何十という男に犯されまくったらしい…それが長い間続いたあと、トイレの横に繋がれ、雑に扱われる肉便器になった…だが犯され続け汚れ風呂にも入れて貰えず使われ続けた彼女達は…やがて誰もが使わなくなったらしい


「こんな汚い女とやる位なら豚を抱いた方がましだよな」


「これ、もう汚物でしょう…殺しちゃおうよ」


「「たた、助けて下さい…」」


それからは、本当の慰み者になった。

ナイフで体を斬られて、痛がる姿を笑いながらみられたり…オイルを垂らして火をつけられたり…ただ弄ばれるだけの生活…


確かに如何に二人でもあの状態じゃ抱けない…


「なんでそんな事になったのですか」


「ああっ、あのクズが勇者を辞めてしまって、エルフの女を買ってきたんだ…それからだよ…暴力を振るって、金を稼いでこいって」


「本当にクズ…」


「ガイアが勇者じゃなくなったんなら、放って逃げれば良かったはずですわ」


「甘かったんだよ…立ち直ってくれる…そう信じたかったんだ」


「うん、だからそのまま冒険者でも良いって思っていたのに…リヒトがー-っリヒトが悪いんだよー-っ」


「待てリタ…リヒトは…悪くない」


「解っている…解ってはいるんだよ…だけどさぁ」


話を聞くと…俺のせいだった。


エルフの女を買ってきた後、ガイアは俺の所に行って奴隷になれと二人にいったそうだ…最初は冗談だと思い相手にしていなかったら…こんな事になったらしい…


「待って下さい…そんな状態だったのなら、なんで奴隷になっているのです? 可笑しいですわ」


「それがあのクズの策略だったんだ…私達が慰み者になってから…彼奴は盗賊を皆殺しにした」


「まさか…」


「そうだ…盗賊に捕らわれた者や盗賊の財宝は討伐した者の物になるガイアは『薄汚い豚』と私達を罵って…うっうっ奴隷紋を刻んで…奴隷商に命じて汚いまま此処に連れて来られたんだ」


「リヒトは悪くない…だけどガイアがリヒトに借金があるからって…」


「それはリヒトは悪くありませんわ…ただガイアに手切れ金代わりにエルフの身請け金をあげただけですわ…恐らく返さないそう思っていましたわ」


「なぁ、マリア…それは別にしてエルザもリタも置いてやって良いか…このままじゃかわいそうだ…」


「仕方ありませんわね、奴隷にしてしまったのですから、面倒見るしかありませんわね」


「なぁマリア…二人は真面に動けないんだよな」


「ええっ私が治せない以上まず無理ですわ『エリクサール』は別ですがね」


「ううっ済まない」


「ごめんなさい…」


「別に気にしないでよいさ…俺も原因の一つらしいしな、纏めて面倒みてやるよ」


「「リヒト」」


「それじゃ…今度こそガイアに会わないように更に南にいきますか」


「そうですわね…とりあえずは荷車は必要ですわね…準備が出来たら行きましょうですわ」


「何処に行くんだ」


「何処に行くの」


「皆が楽しく暮らせる安住の地へ」


「「安住の地?」」


「そう…安住の地ですわ!」























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