第5話 朝まで


オールナイトコースでぶち込んだから今夜はガイアは居ない。


さてどうするか?


ガイアは明日の朝まで帰ってこないから…俺は三人の相手でもするか?


高級なワインを用意して、高級なつまみを買う。


ついでに薔薇の花束を買った。


薔薇の数は15本ずつ…こんな物か…


誘うのはルール違反じゃない。


『思い出作り』これにはガイアも了承したし、三人も了承した。


暫くしたら、またガイアの所に戻ると言って置けば、ガイアに嘘を言った事にはならない。


◆◆◆


「マリア…起きているか? 少し良いかな?」


ドアが開いたがマリアの顔には明らかに不機嫌そうな表情が浮かんでいた…


「リヒト、何かようなのですか? もう寝ていたのに…失礼ですわ」


俺は用意していた薔薇の花束を渡した。


マリアの顔がきょとんとした驚いた顔になる。


そりゃそうだ…俺達5人は幼馴染…しかも村育ち…こんな事をする人間は周りにはいない。


都心部にはいるかも知れないが中世に近いこの世界の田舎にはいないだろう?


「マリアの年齢分の薔薇を包んで貰った、月より美しく女神の様に美しいマリアの時間をほんの少しだけ、この俺にわけてくれませんか?」


「あああっあの…困りますわよ」


そう言いながらも顔が赤い。


「マリア…別に二人っきりで飲みたい訳でないよ…ガイアに誤解されるのは嫌だろう? それは同じだ…他の二人もこれから誘うから、それなら平気だろう?」


「ええっ…そう言うことなら良いですわ」


◆◆◆


トントン


がばっとドアが開いた。


セキュリティって考えたら不味いだろう。


まぁ剣聖に勝てるような奴まずいないか。


「なんだ…リヒトか? こんな夜にどうしたんだ?」


「偶には幼馴染と飲みたい夜もあるさ!その相手が奇麗で美しくそうだな孤高の狼の様に美しい相手ならなおさらな…はいこれ」


「薔薇…なんで」


「エルザみたいな美女を誘うのに手ぶらもなんだから、買ってきたんだ…少しだけ付き合ってくれないか?」


「あっあああ、あのな…その」


やはり慣れていないな…まぁ当たり前だ。


特にエルザはボーイッシュだから小さい頃は女扱いされていない。


俺からしたら、前世で言う陸上女子みたいで可愛く思えていたけどな。

「流石に俺と二人っきりじゃ嫌だろう、皆も一緒だ」


「ああっそう言うことか? それなら構わない」


◆◆◆

さてと..最後はリタだな…これが多分手ごわい。


トントン…


「なぁに、なんかよう!」


相変わらずリタは寝起きが悪い。


基本的に早寝だ…多分もう寝ていたんだな。


「いや、リタと酒を飲みたいと思ってな」


「なんで…飲みたい訳!」


「いやまるで草原に咲く綺麗な一輪の花みたいなリタと一時を過ごしたい…可笑しいか?」


「ええっ…なにそれ」


急にもじもじしだした。


都心部は兎も角、中世の田舎の女性なんてこんなもんだ。


優しい言葉なんて、なかなか掛けて貰えない。


世界はまだ『男尊女卑』都心部は流石に違うが田舎なんてそんなもんだ。


「いや、リタ一人じゃないよ、皆でだ」


◆◆◆


「さぁ、あがって、あがって…」


「なんだ、このローソクだらけの部屋は?」


「なんだか良い匂いもしますわね」


「あっおつまみが凄い」


前世で言う間接照明に香水を振りかけた部屋だ。


本当はこれにローソファーが欲しいが、残念ながら無いからお洒落な座布団で代用だ。


「まぁな、皆をもてなす為に用意したんだ」


ちなみにおつまみはピザにパスタ…この世界ではなく俺の前世の料理に似せた物…他にはサラダや肉料理もある…女性を口説くにはイタ飯が定番だ。


「おい…皆と言う割にはなんでガイアが居ないんだ?」


「ああっガイアは外で飲んでいて盛り上がっている…まぁ冒険者の男達とだけどな…疎外感を感じたから一時退避だ」


「そうなのですか…それなら仕方ないのですわ、それでなんでこんな飲み会を考えたの」


「うんうん…こんな風に誘われたこと無いよね」


「いや...これはIFの世界なんだよ…ガイアが勇者にならなかったら俺が皆にしていた事だ…」


「なんだ…それは」


「どういう事ですの?」


「なになに?」


「だってそうだろう? 勇者パーティに所属しなければ複数婚は出来ないから、ガイアは1人しか結婚は出来ない…そうしたら恐らくは残った2人のうち1人と俺は結婚する、そういう未来が待っていた筈だ…三人の中の誰かと結婚する未来…それが俺の夢だったんだ」


結婚…このキーワードは使える。


余程嫌われてなければ『結婚したい程好きだ』この言葉に嫌悪感を感じる女は居ない。


「確かにそうかもな? その相手は私かも知れなかったな…確かにそう言う未来もあったかもな」


「まぁ無いとはいえませんわね」


「そうだよね、ガイアが選ぶのはマリアかエルザの可能性は高いから…そうか私がリヒトのお嫁さん…あったかもね」


間違いなく、この三人の中から1人が俺の嫁だったはずだ。


「だが、それはもう無い…三人はガイアの側室になるんだから、その未来は無い…だから一緒にすごせる残り僅かな期間…自分の思いは伝えようと思うんだ…勿論、皆が俺に答えてくれることは無い…それは解っているけど…気持ちだけは伝えさせて欲しい…さぁ飲んで食べてくれ」


「リヒト…お前、そんなに」


「まさか、そんな」


「そうだったの」


「あはははっ、そこから先を聞くと未練が増すから聞かないよ、ほら笑顔で楽しんで」


「ああっ」


「そうね」


「うんうん」


今日はいわばジャブだ。


だから手を出さない…『好意をもった良い奴』そのイメージをつけるだけだ。


昔話に花を咲かせた。


今はこれで良い…彼女達の傍に居れる人間は俺とガイアだけだ。


『勇者パーティ』だからな…ガイアが一番、俺は2番…


もし、勇者と三職、その関係が無ければこの関係はどう転んだか解らない。


ガイアが100で俺への思いが0なんてことは無い。


俺だって幼馴染だガイアが100なら俺への思いだってどう安く見積もっても70はある。


最もこの30の差は今現在は絶対的な差だ。


この30をどう埋めていくか?


それが今の課題だ。


「どうしたんだリヒト、難しい顔をして」


「皆…幸せになってくれると良いな…そう思ってさ」


「急にどうかしました…可笑しいですわよ」


「どうしたの? なんで?急に」


「ああっちょっとだけ思ったんだ『悔しいな』ってな、俺にとっては皆は一番大切なな女性なのに…ガイアにとっては三番目以下なんだから…」


「悪い…それは余り触れないで欲しい」


「そうですわ」


「うん…余り考えたくないよ」


彼女たちはガイアの一番じゃない…それは自覚している筈だ。


魔王討伐後…恐らくはまだ見ぬ権力者の娘が恐らくは正室になる。


それがお姫様なのか貴族の娘なのかは解らない。


最高で王配…最低で上流貴族の娘が正室となる。


『つまらない話…まるで糞』


俺はこう思ってしまうな…命がけの戦いの末…惚れた男の恐らくは3番目以下、正室以外にもう一人位教会か王国が嫁を送り込むのが通例だ…本当に糞だ。


「そうだな…もう言わないよ、だが俺は三人が好きだ、世界中で一番な、だがその願いは叶わない!三人もガイアの一番で居られる期間は今だけだ…頑張れよな!」


「「「リヒト」」」


「応援するとは悔しいから言えないけど、三人が幸せである事を俺は祈っているよ」


「ありがとうな…まぁお前も飲め」


「そうですわね、酌位ならしてあげますわ」


「あっ、それ位なら良いよ」


勇者パーティだから気晴らしも出来ないよな。


少しは打ち解けてくれただろう…


しかし、チョロいな…皆、酔いつぶれているな。


20倍に薄めた眠り薬でこれか…


体目当てならこれでもうOKだ。


だが…俺が欲しいのはそれじゃない…だから毛布でも掛けてやるか。


「お休み」


俺は三人に毛布を掛け部屋を後にした。


ガイアを迎えに行かないといけないからな。


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