3.心身体バラバラ

「告白されて、付き合ってくれって言われた」


祐希はそう困ったように言って、

それを聞いた私は固まってしまった。


「ずっと好きだったって言われて」

「それでどうしたの?付き合うの?」

「良く知らない人だし、付き合うとかは考えられないって言ったんだけど…」

「…それで…?」

「…茜はどうしたらいいと思う?」

「は?」

「付き合った方がいいかな?」

「…」


一体何を言ってるんだろう?

祐希の顔は、何故か怯えているような何処か不安そうな表情に見えた。

けれど、私はそんな祐希を見ても、可哀想だとか、心配だとか

そんな気持ちには少しもならず、ただただ酷くイラだった気持ちになった。


それは自分だけが祐希に振り回されていることに対しての苛立ちであり、

私をこんな気持ちにさせた張本人の癖に、

なんでそんな苛められた子犬みたいな顔をしているの?と言う祐希への苛立ちだった。

冷静に考えたらそれが八つ当たりだなんてことはわかるはずなのに、

止められなかった。


「どうしてそんなこと私に聞くわけ?

 私が辞めろって言ったら付き合わないの?

 それとも私が付き合えって言ったら付き合うの?なにそれ?馬鹿じゃないの?」


自分でもびっくりするくらい感じの悪い言い方だった。

突き放すような、馬鹿にしてあざ笑うみたいな、そんな性格が悪い言い方だ。

もうちょっと言い方って物があったはずだ。

けれど私はそれが出来なかった。


小さい頃から二人、手を繋いで。

一緒に笑って 泣いて 怒って。

何度も喧嘩もしたし、仲直りだってした。

お菓子を分け合ったり、お気に入りの文房具を交換したり。

恋の話だけはしたことがなかったけれど。


私は祐希が大事だった。

私はきっと祐希を独り占めしたかった。


だから、許せなかった。


「……茜?」

ショックを受けた顔の祐希の顔を見ていられなくて私は駆け出してしまった。

「茜!」

後ろから泣き出しそうな声が聞こえたけど、立ち止まらなかった。

追いかけてきて欲しいと思わなかったといったら嘘になる。

けど、祐希は追いかけてこなかった。





それから、私と祐希は気まずくなってしまって、下校を一緒にする事はなくなった。

祐希と3組の沢原は結局付き合いだしたのか、

時々廊下や食堂で、話をして居るのを見かけることはあった。

祐希は何度か、不安そうな顔で私に話しかけてこようとしていたけれど、

どんな顔をして良いのか分からない私はいつも逃げ出し、避け続けた。


祐希が他の誰かに向ける笑顔なんて見たくなかった。

どうしてその顔を向ける相手が私じゃないの?

どうして私じゃダメなの?

醜い嫉妬心と、どうしようもない悔しさで

何度も何度も消えてしまいたくなった。






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