第40話「決戦前夜で稼ぎまくる」

 ダンジョン吸血鬼を倒した翌日、フランから連絡があった。

 内容はすぐに予想がつき、エリックはいかにして居留守を使うかに頭を働かせたが、フラン名義で、連絡をしないと伊東屋を襲撃するという旨の怪文書が何通も送られ、観念して連絡を取ることとなった。


「で、用件は、俺といつ戦うかですよね?」


「ええ、もちろん。でも、その前に今回は、ダンジョン吸血鬼の討伐にご協力いただきありがとうございます。伊東屋さんは私たちの目的ですから見逃すことはできないですが、お礼としてそちらに良い日取りに譲歩することもあるかもしれません」


「ずいぶん、曖昧な言い方。それって譲歩しないやつっ! 一応却下されると思うけど、100年後とかどうですか?」


「ふふふっ。まぁ、面白い冗談ですね~」


「ですよね~」


 面白いと言いつつも目は一切笑っておらず、あきらかに殺気の込められた言葉に、即座に撤回する。 


「それでは2日後のお昼12時はどうですか?」


「却下です~。人が多いところ、時間は被害が出る可能性があります。夜の12時なら構いませんよ」


 エリックの狙いはまさしくそれで、人込みに紛れつつ、ホリィを責める手筈だったのだが、フランはすでに読んでいたようであった。


「夜は吸血鬼の時間だけど、構わないのですか?」


「あなたに時間は関係ないですよね~?」


「まぁ、吸血鬼らしい弱点はないからね。オーケーそっちが良いなら、12時からでいいですよ。それでは2日後に」


                ※


 エリックは来たるXデーに向け、自己研鑽に励んでいた。


 ホリィとは近距離での戦いは避けたいと考え、投擲能力の向上を図る。

 2日間でどれだけ向上するかは未知数だがやらないよりはマシだろう。

 さらに執事のグレイを巻き込み街中に罠を張り巡らせ、勝つための作戦をいくつも練る。

 寝なくても支障がないという吸血鬼としての特性を最大限に発揮し、人間の聖女から生き残る手立てを十全に考えるのだった。


 そして、当日。


 エリックは吸血鬼としてのスーツ姿ではなく、防刃のケブラー繊維で出来たパーカー、鉄製の籠手と脛当て、胴体もTシャツの下に鎖帷子を着込み、さらに様々な武器を仕込む。

 これは、今までは攻撃を喰らっても自己再生で補えた為、高級スーツという姿だったが、今回は少しの足止めでも命に直結すると考え、ダメージが少なくなるような装備にしていた。

 それだけ、聖女ホリィの存在はエリックの中で強大なものとして扱われていた。


「さて、目標は禍根を残さないようにホリィを倒して見逃してもらう。無理ならなんとか逃げ切って、この戦い自体なかったことにするしかないっ! あとは、死んだふりは真剣に考えておかないと……、まぁ、死んだふりしても頭潰されそうだから、やらないけど」


 クマに対峙した山岳者の気持ちが今のエリックに一番近いかもしれない。

 普通の人間なら確実に死ぬだろうし、吸血鬼という特性を持ってしても死は回避できないかもしれないそんな状況だったが、


「タワーマンションの為、墓標なんか建てられている場合じゃないっ! ホリィには悪いけど、どんな卑怯卑劣な手を使っても生き残ってやる! ……いや、全然悪くないな。むしろ理不尽に殺されそうになっているのこっちだし」


 意気込みも新たにエリックは満月が照らす中、街の中へ。


「ふぅ、不気味なほど良い月だね」


 エリックの後には膨大な領収書が舞った。

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