第24話「ワイバーン三匹で稼ぎまくる?」

「皆、逃げろっ!!」


 エリックの叫びは、この広いダンジョンという空間にも関わらず、なぜか全員への耳へと届いた。

 そして、その言葉の次の瞬間、


「がぁああああああああああっ!!」


 ワイバーンの咆哮がダンジョン内に響き渡る。


「くっそ! なんで、こっちにまで追いかけてくるんだよ。自分の巣で大人しくしてろよっ!!」


 エリックを追ってまずやって来たのは、空を飛んでいたワイバーンで3匹ほどが階下の9Fまでやってきた。

 このサイズは過去にエリックとホリィで打ち倒しているが、あのときは一匹で今度は三匹。

 以前のようにいかないのは明白であった。 

 つまり、ただ、逃げるしかない。


 エリックに狙いをつけたかぎ爪が空中から襲うのを、なんとか音を頼りに振り向かずに避ける。

 

(やばいやばいやばい。どうする、まさかここまで追ってくるなんて、このまま自衛隊と合流したら、どれだけ被害が出るか分からないし……)


 そう悩んでいると、「こっちよ!」と声が掛かる。その声の方向に咄嗟に向かう。


「ゴブリンが急に大人しくなったから、なにかと思ったら、あのときの飛ぶトカゲね」


 エリックの目の前には、ロケットランチャーを構える歴戦の傭兵。ではなく、純白の聖女服を纏う、まごうことなき聖女。


「えっ? 待って。イヤな予感しかしないんだけどっ!!」


 エリックの僅か上空に向かって放たれたロケットは、ワイバーンに命中したにはしたのだが、


「おぼぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 爆風で吹っ飛ぶエリック。

 映画なら、主人公クラスなら生き残るが、モブなら死ぬくらいの爆風を受けたが、吸血鬼のエリックはなんとか生存を果たす。


「ちょっと! 死ぬところだったし、なんだよ、その武器ッ!! どっから出した!!」


「自衛隊の人たちが快く貸してくれたわ。ロケットランチャー、思いのほか楽しいわね。でもっ!」


 ホリィはロケットランチャーからハンマーに獲物を持ち替えると、ロケットのダメージで徐々に高度を下げているワイバーンの鼻っ柱にキツイ一撃を叩きこむ。


 ゴキッという嫌な音が響き、エリックは、「あっ、首の骨が折れた」と思い、事実その通り、ワイバーンの首はΩのように歪む。


「やっぱり、十字じゃないとモンスターは殺せないわねっ!」


「いや、なんでもきっと殺せるよ。持ち替えなくてランチャーで殴っても殺せてたって」


「さぁ! 次行くわよっ!!」


 ホリィは、爆風に巻き込まれ未だ地面に伏しているエリックを掴むと、無理矢理立たせる。


「あんた、またあのときみたいにワイバーンを落としなさいっ!!」


「え、あ、ああ。わかった。だけど――」


「分かってるわよ。アタシが落としたようにすればいいんでしょ! ふんっ!」


 初めてハンマーとしての正しい使い方をし、その辺にあった岩を砕く。


「アタシがこの岩を投げるから、それに合わせなさい!!」


「オーケー。ちゃんと当ててよね」


 ホリィがこぶし大の岩を投擲するのに合わせて、エリックは懐から出したハーモニカをかき鳴らす。

 が、しかし――。


 ゴンッ! と鈍い音を立ててワイバーンの一匹に当たると、そのままワイバーンは墜落。

 石造りの祭壇に激突し、運悪く祭壇の鋭角な箇所が首元に突き刺さり動かなくなった。


「…………」


「…………」


「俺、いらなかったな」


「えっと、なんか、ごめん」


 誰に対しての謝罪だったのか不明だが、たぶん、エリックとワイバーン両方にだったのだろう。


 そして、最後の一匹は、自衛隊の皆さんによって、ロケットランチャーを雨あられと撃ち込まれ、ほぼ原形を失くしている。


「……必死に逃げたのが、モンスターの俺だけってどういうこと?」


 思わず、自分って本当にエリートだっけ? と思い悩む。

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