第23話「階段で稼ぎまくる?」

「ピュイっ!!」


 口笛を鳴らし、周囲からの反響音を確認しながら、エリックは走った。

 一分一秒でも早く、階段を探し、自衛隊を助ける為に。


「ぎゃぎゃぎゃ!」


「ああ、ちょうど良い」


 不意に現れるゴブリンを殴りつけ無力化させると、首根っこを捕まえ持ち上げる。


「次の階への階段はどこだ?」


 人間の言葉が分かるはずのないゴブリンだったが、なぜかエリックの言わんとすることが伝わる。


「grうぃpそjふぁp???」


 謎の言語に対してもエリックは澄ました表情で、答え返す。


「俺の言っていることは分からないかもしれないけど、音にはそれだけで感情を伝えることができる。今は俺の焦りとか、怒りとかそういう感情を音として流してやった。つまり、先に進みたいってことだ。それなら、当然階段を進むだろうというのは3歳児でも分かることだよな」


「gしじぇをはえwjrbjp!!」


「ああ、いい、いい。クリアさせない為に自殺するような奴らだ。聞いても階段の場所を教えるはずはない。分かっているよ。でも、俺が階段を探しているって知っていることが重要なんだよ」


 まるでダウジングマシンのようにゴブリンを右へ左へとゆっくり向ける。


「動揺したな」


 エリックはそのまま右方向へ進みだし、ある程度進むとまたゴブリンを左右に振るう。


「行かせたくないと思うことが、動揺に繋がる。動揺すれば心臓の鼓動は激しくなる。それを聞き取るくらい、造作もないんだよ。この高貴なるエリート吸血鬼ならね」


 エリックはとうとう祭壇と思しき場所の裏に階段を発見する。

 そこは祭壇のスイッチとおぼしき石碑を押してはじめて現れる仕組みとなっていた。


「ここは、あのワイバーンが降りて来ていたところだよな。ま、なにわともあれ、ここを登ってダンジョンクリアしたらさっさと撤退しよう」


 この階は少数精鋭で身を隠しつつ階段に辿り着くのが最適解のようで、ゴブリンみたいな数が脅威の相手ならば当然こちらも数頼みで勝負しようとする。

 それが裏目に出ようとは知らずに。


「けど、人質も取ってるし、こうしないと攻略は出来ても……、まったく嫌な階だね。自衛隊が予想の3倍は強かったから問題なかったけどさぁ」


 強制的に道案内させていたゴブリンにトドメを刺し、さっさとこんな階は終わらせようと、エリックは階段に足を掛けた。


 ――ゾクッ!!


「うおおっ!!」


 思わず、足を上げ、そのまま後ろへと倒れる。


「な、なんだ今のプレッシャー。の、登ったら確実に死ぬような、そんなヤバさが……」


 全身に冷や汗が流れる。

 こんなのは聖女と対面したとき以来だと戦々恐々と慄くが、遠方からの激しい銃声にホリィとの禍々しい思い出によって、なんとか再び立ち上がる。


「いやいや、これくらいの恐怖、大したことないな。うん」


 階段に足をかけ、一気に駆け上る。

 これで攻略でき、自衛隊も人質も自分も逃げられるのだから。

 希望と絶望の紙一重の境界を登る。


 階段を登りきると、そこは清々しいまでの草原。

 その清々しさが、キレイさが逆に恐怖をあおる。


 仰ぎ見た空には、数匹の飛竜が飛び回り、はるか先に鎮座する飛竜は、これまで見た飛竜より数倍の大きさと圧。

 その瞳がギョロリとエリックを捉えた。


「あ、ヤバ、死んだわ。これ」


 その大きな飛竜だけ、他とは比較にならないほど、濃厚な死の気配を放っており、それは聖女よりも強くエリックに圧し掛かった。


「に、逃げないと……」


 ガクガクと恐怖で足が動かないのを自覚すると、エリックはナイフで思いっきり肩を刺し、その勢いで、そのまま階段を転げ落ちた。

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