第22話「ゴブリン討伐で稼ぎまくる」
「うぅん……、さて、向こうの状況はどうかな?」
ようやく目が回復してきたエリックは耳を澄まし、自衛隊の様子を探る。
戦況としては、銃火器でゴブリンを圧倒しているようである。
しかし、その音が止むことはなく、エリックは首を傾げ、それから、自衛隊以外の周囲の音に気を配る。
「……なるほどね。さすが9F。一筋縄じゃもちろん行かない訳か」
エリックは人質たちの安全をホリィに頼むと、壁沿いに駆け出した。
(ここのゴブリンは無限に湧いて出てくる。5Fのオーガの短縮版だとも言える。そんなところで殲滅戦なんて出来る訳がない。俺たちの今回の目的は、あくまで攻略にある!)
その為、エリックは上へと続く階段を探す。
ゴブリンの大まかな位置が分かるエリックは、接敵を避けてぐるりと壁を一周し、
「おいおい。なんで、なんで階段がないんだよっ!!」
他の階では階段は普通に見つかり、なんなく攻略できたが、ここにはその階段がない。
「ワイバーンや吸血鬼が出るんだ。ここが最上階というのはありえない、けど……」
自衛隊の銃声が徐々に少なくなっていく。
その事実が余計エリックを焦らせる。
(どうする。どうする。ここは皆で撤退するか……、それとも、俺一人で階段探しを続けるか?)
数秒悩んだ末にエリックが出した答えは――。
「逃げるっ!! 命あっての物種だしね!!」
さっそく自衛隊の銃声が聞こえる方へと向かうが、どうにも様子がおかしい。
銃声はもうほとんど聞こえなくなると同時に、新たなゴブリンの気配も聞こえない。
無限に湧いてくると思われたゴブリンだが、そうではなく、これで打ち止めになったのか?
そんな疑問を覚えながら歩いていると、地面に倒れ伏すゴブリンが散見されるようになる。
最初は弾丸により絶命しているゴブリンだらけの死屍累々といった地獄絵図だったが、次第に、弾丸が貫いているのが足や急所を外れた腹だったりするゴブリンが呻き声を上げ、地面に転がっていることが多くなる。
「あっ! 伊東屋さん、ご無事でしたか?」
峰岡少尉はエリックを心配しつつ、駆け寄ると、この状況に眉をひそめるエリックの疑問に答える。
「いや~、最近の若いのは対応が早くてスゴイですね。最初のうちはゴブリンを鏖殺していたのですが、一向に数が減らないのですよ。すると、うちの若いのが数名、殺すと補充される仕組みなのではないかと仮説を立てまして、こうして生かさず殺さずの状態にしたら、この通りです」
再び、周りをキョロキョロと見回したエリックは、
「やっぱり、自衛隊って強いですね」
自身が吸血鬼だとバレないように細心の注意を払おうと決心した。
※
ほぼゴブリンの脅威が全て消え去ったが、肝心の階段が見つからない。
エリックはその事や、人質の件を説明していると――。
「ぎゃぎゃぎゃっ!! ガフッ!!!!」
地に伏せっていたゴブリンが持っていた短剣で自身の首を掻き切った。
それに倣うように他のゴブリンも一斉に自害をはじめる。
「これは……」
「――っ!?」
峰岡少尉の目が真剣な眼差しになり、すぐに隊員たちに指示を出す。
「ゴブリンの第二波に備えろ! 出現場所は不明。お互いに背を守り合うんだ!」
「峰岡さん、ここは撤退すべきじゃ……」
「いえ、伊東屋さんには申し訳ないですが、どこからゴブリンが出てくるかわからない以上、ここでの撤退は危険です。なにより人質の命が危ぶまれます。ですが、安心してください。あなたとホリィさん、それに人質の命は我々が命に代えてもお守りいたしますから」
今まで武骨な印象だった峰岡少尉は相手を安心させるためか、ニッと爽やかな笑みを浮かべる。
自衛隊は少尉の素早い指示で次のゴブリンに備えるが、それだけでは足りない。
この階の階段を探し、攻略しなくては、退くことも出来ない
「はぁ、なんで人間は、そんなに他人のことに一生懸命になれるのかねぇ。最高に損して得取れじゃん!」
そういう所が吸血鬼であるエリックが畏れつつも尊敬し、そして真似しようと思う生き方なのだ。
(そんな奴らに死なれちゃ、タワマンなんて夢のまた夢だろっ!!)
エリックは、いつの間にか、自衛隊から離れると、一人ダンジョンを駆った。
その瞳は紅く、そして口元からはチラリと犬歯が覗いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます