第18話「言い訳で稼ぎまくる」

「エリック様、お帰りなさいませ。して、首尾は?」


 恭しい態度で迎えるグレイに、エリックは頭を悩ませながらも答える。


「あ~、大失敗だよ。こっちの行動は読まれていたし、向こうは強い仲間も居た。この調子だと何人が洗脳されて敵に回っているかわかったもんじゃない。そんなところにいくら聖女が一緒に行ったって勝てるか分からないしね。三十六計逃げるに如かずだよ」


「ふむ。つまり、惨敗しおめおめと戻ってきたと」


「まぁ、そうなる。だが、一時の感情で負けが恥ずかしいからとか悔しいからで動けば失敗するし、そんな感情に囚われるのは百年くらいしか生きられない人間だけのものさ。俺たちは、最後に生きて勝てばそれでいいんだからな」


「やはり、エリート様の血を継ぐお方ですな。このグレイめも同意見にございます。まずは回復に専念。それから対策を。そして――」


「「復讐を」」


 二人のモンスターは闇の中、ニヤリと笑みを浮かべた。


「まぁ、今回タダでやられた訳でもない。相手が動くのは伊東屋をやっているときだけだから、残念だが、しばらく休業だ。それと寝床もだいたい分かったし、ゴブリンの件が解決したら、一気に叩く。グレイもそのつもりで準備しておいてくれ」


「かしこまりました」


                ※


 それからの数日、エリックは体の回復に当てていると、フランから連絡が入った。


 吸血鬼を取り逃がした件を皮肉たっぷりに言われたが、ホリィと共にすぐに行動を起こさなかった点についてはお咎めなしであった。そして本題となるゴブリン攻略の日取りが3日後に決まったとのことだった。


「さてと、それじゃ、行って来ますか」


 今回は自衛隊が同行するとのことで、ちゃんと人間らしい装備プラス、ハーモニカを持ってダンジョンへと向かう。


 そこにはふくれっ面のホリィといつもの様にほほ笑むフランの姿。


「えっと、ホリィはどうしたんだ?」


「はぁ!? よくワタシの誘いを断っておめおめと来れたわね!!」


「あれは、どう考えても死へのいざないだっただろうがっ!」


「師匠も酷いと思いますよねっ!!」


 ホリィは師匠へと助けを求めるが、


「ん~、伊東屋さんからしたら仕方ないんじゃないかしら~。私も瀕死のときに勝てるかどうか分からない相手とは戦いたくないわよぉ。やっぱり、なら一方的な狩りじゃないと」


「そう、ですか」


 フランにまで見放されたホリィは珍しく塩らしくシュンとする。


「あ~、その、なんだ。万全の作戦を立てて、戦力も体力も立て直して吸血鬼に挑むから、そのときは聖女の力を頼りにしている。それにあのときはカントリも居たからな。俺やお前は大丈夫でもカントリが心配だったし」


 こんな場合を想定してグレイと共に考えておいた言い訳を披露する。


「はっ!! 確かにそうねっ! カントリちゃんがもし、吸血鬼の毒牙にかかったら、逆に吸血鬼を殺さなくなるところだったわ!」


「こ、殺さなく?」


「え、そんな、すぐに殺したらカントリちゃんの復讐が果たせないじゃない。ちゃんとボコボコにして、そして改宗させてあげるのよ。死よお救いくださいって言うまで」


「主じゃないのね。死は救いっていうのを地でいくのね……」


 そうこうしていると、約束の時間になり、迷彩服を着た自衛隊員総勢31名が現着する。


 屈強な男性が一歩前へ出ると、ビシッと敬礼。


「自分は峰岡太陽ミネオカ タイヨウ少尉と言います。本日はご同行ありがとうございます。ですが、日本国民を守るのが我々の役目ですので、どうか後ろの安全なところに控えていてくださいっ! ゴブリンは我らで掃討いたします!」


 短髪の髪に日に焼けた肌。精悍な顔つきはいかにも女性に受けそうではあったが、内面から出る生真面目さがアプローチを躊躇わせる。

 そんな峰岡少尉と隊員30名の小隊を加え、エリックとホリィのゴブリン攻略の幕があける。


 

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