第16話「罠で稼ぎまくる?」

「まさか、伊東屋俺の店を隠れ蓑にしていたから聖女にも見つけることが出来なかったとはな」


 吸血鬼は伊東屋が出店するときに人を襲っており、その際に伊東屋の従業員を名乗る男が目撃されているらしい。

 なんでも、商品に不備があったとかで女性を誘いだし、そのまま吸血。

 ポーションにはエリックの血が含まれている為そこから伊東屋が何かしらで吸血鬼と繋がりがあると予想するのは容易であっただろう。

 そして、そのポーションの吸血鬼の気配を察知できるものがいれば、注意は伊東屋の方に向くのは必然であった。


「俺の客を誑かすどころか、俺自身もいいように扱われ、あげく聖女に狙われる日々を送らされるなんて、許せねぇよなぁ!!」


 フーフーと息を切らすが、これは吸血鬼が現れるタイミングが分かっただけで、潜伏先が分かった訳でも次のターゲットが分かった訳でもない。

 しかし、可能性の一つとして、ポーションを買った女性が襲われる確率は高そうであり、エリックはこの前、無理矢理にでもポーションを作らせたグレイに感謝の念を浮かべる。


「それじゃあ、働きつつ、ダンジョン吸血鬼をおびき出しますか」


 その夜。いつものように伊東屋を開き、弁当を売りつつ、ポーションも売る。

 女性客に目ぼしをつけて、ポーションを渡していき、数刻後には完売。

 いつもなら、そこからお弁当が掃けるまで続けるのだが、


「隣のおっちゃん。良かったらこの弁当食べてよ。今日はちょっと急用があってさ。お代はいらないから、いつものお礼だと思ってよ」


 そして、隣の店の店主に弁当を渡すと、急いでエプロンを脱ぎつつ、ポーションを買った女性を索敵する。


(今日、ポーションを購入した女性は全部で三人。全員が下級ポーションだから、差はないだろう。ただ……)


 エリックは一応。本当に一応だが、その三人の中でも一番の美女であった女性に気を多く割いていた。


(ダンジョンのモンスターは変なところだけこちらの伝承通りのときがある。それなら、吸血鬼は美女の血を求めるはず)


 案の定、一番の美女のところで変化が起きた。

 エリックはそれを聴覚で察すると、夜の闇へと消えた。


                ※


 闇の中、誰にも見つからないように建物の上を飛び移って移動し、そう遠くない距離にて、女性を補足。

 その場には、あの日見かけた全身黒づくめの変態。もとい、全身黒づくめの吸血鬼が伊東屋と刺繍の入ったエプロンを脱いでいた。


「どう転んでも変質者にしか見えんっ!! そんなのがうちの従業員とか思われたら、風評被害まであるじゃねぇかっ!! しかも――」


 今度は逃げられないように全方位集中しながら、空中から蹴りを仕掛けた。


「オリジナルエプロン勝手に作ってんじゃねぇ!!」


 ゴキッ!


 確かな手ごたえ。

 だが、エリックは油断せず、美女に対し手刀を行い気絶させ目撃者をなくす。


「吸血鬼なら今くらいの攻撃じゃあ死なないだろ。ほら、立てよ。俺を怒らせたんだ。一万回は殺す」


 床に伏せっていた吸血鬼は、そのまま立ち上がると、歪に折れ曲がった首をゴキンという不快な音を立てながら治し、不敵な笑みを浮かべた。


「これはこれは、伊東屋さんじゃありませんか? どうしました? もしかして、ワタシが美女の血を独り占めするのが許せないのですか?」


「ダンジョン吸血鬼ごときが、エリートの俺を利用するのが許せないんだよ。しかも、お前がそんなことすると、現地の他の幽霊族的なモンスターとか陰陽師とか、というか既に聖女に狙われているんだよっ!!」


「ふふっ。我ら高貴な吸血鬼、そのような輩に脅える必要などないでしょうに」


 ダンジョン吸血鬼は、ゆっくりと、しかし、魅力的にエリックに語りかける。


「どうですか? ワタシと手を組みませんか? ワタシが世界を掌握したあかつきには、あなたの欲しいもの、なんでもプレゼントいたしますよ」


「本当に?」


「ええ、契約を結びましょう。そうすればお互い約束を違えられないのです」


「いや、本当に世界を掌握できると思っているのか? お前ごときに? そもそも俺ですら人間に勝てないし、かのドラキュラ伯爵だって人間に負けるんだぞ」


 ダンジョン吸血鬼の目はまるで虫けらを見るような冷めた視線に変わる。


「ふんっ、どうやら見込み違いのようですね。たかが人間に恐れをなすなど、とても吸血鬼とは思えませんね」


 その言葉と共に、ダンジョン吸血鬼は牙を剥き、襲い掛かってきた。


「お前くらい、人間の技でも倒せる!」


 エリックは襲い掛かる吸血鬼の襟を掴むと、そのまま一本背負いで地面へと叩きつけた。

 襟の手を離さず、そのまま地面へ押さえつけたまま、ナイフを取り出すと、心臓へと突き立てる。


「吸血鬼は首をはねないと死なないのも多いからな。容赦なくトドメを刺させてもらうぜ」


 ナイフを抜き、今度は首へ突き立てようとしたその時、エリックの方からまるで何かを刺したような音が響いた。


「がはっ! な、なにが……」


 ゆっくりと首を動かし、腹部を確認すると、手のようなものが突き出ており、背後から貫き手で貫かれたのだと理解する。


 背後を見ると、先ほど助けた美女が虚ろな目でエリックのことを差していた。


「ば、ばかな。吸血されていないはず」


「ふふふっ、そのうち、あなたがワタシのことを調べるのは想定内でした。だから、いくつか罠を張らせてもらいましたよ。一つは彼女。どうです強いでしょ? そしてもう一つは男の血は趣味ではないのですが、仕方なく吸わせて頂いたのですよ。あなたが不審な動きをしたら知らせるようにってね。余ったお弁当は、臭すぎて食べれそうにないですからね。捨てさせてもらいましたよ」


「おまえ、隣のおっちゃんを……」


「いい加減、離しなさい」


 ダンジョン吸血鬼はエリックからの拘束をするりと抜けると、エリックのナイフを奪い、反対にエリックの首筋に突き立てた。


「そうそう、この街の女性はいいですね。ほとんどがダンジョンに挑もうと、強く健康的な肉体を持っている。そこの彼女はワタシの奴隷一号でして、とても役に立ってくれていますよ。人間に負けるあなた程度の吸血鬼ならこうして勝ってくれるんですから。おや、もう意識もないようですね」


 ダンジョン吸血鬼は高笑いを上げてから、女性と共に夜の闇へと消えていった。

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