第13話「攻略報酬で稼ぎまくる?」

「あら~、無事に帰ってこれたのね。良かったわぁ」


 ダンジョンの外に待ち構えていたフランはポンと手を叩きながら二人の無事を喜んだ。


「でぇ、その小鳥ちゃんはどうしたのぉ?」


 ホリィの肩に乗り、一切離れようとしないロック鳥の雛は、ダンジョン攻略後に外に出ても問題ないどころかピンピンしていた。

 一連の流れをフランへと説明すると、意外にもフランはすぐに許可を出した。


「いいわよぉ。ちゃんと聖子ちゃんが育てるなら。モンスターは全て悪だけど、利用できるものは利用した方が賢いわぁ。でも、もしその子が人間に牙を剥くようになったら、きちんと聖子ちゃんが始末をつけるのよ」


 その目はこれまでの温和だが何を考えているのかよく分からない瞳ではなく、憎悪と覚悟が入り混じった漆黒の瞳。それを真っすぐにホリィへと向けていた。


「もちろんよ。そもそもアタシの子が人間を襲うはずないわっ!」


 いつの間にかアタシの子呼びになっているロック鳥の雛。

 

「それじゃあ、今後についてを相談したいんだけど」


「そうよね。今後、この子に名前が必要よねっ! 何にしようかしら?」


「…………フランさんだけでいいですか?」


「いいわよぉ。聖子ちゃん、学校の成績とかは満点を叩き出すのに、こういうところが抜けているのよぉ」


 困ったように頬に手を当てながら、応えるフランに若干の同情の念を寄せるエリックであった。


 二人の相談の結果、ゴブリンはこの街でのお小遣い稼ぎになっていたり、自衛隊の主な活動報告に一定の正当性を持たせるのに活躍している。


「無断で討伐は問題になったかもしれないけど、しっかり国に許可を取ってからなら大丈夫でしょう」


「そうなると、たぶん、面子の為に誰か来るよな。そうなると、俺の力は使えなくなる……」


「そうでしょうねぇ。たぶん、自衛隊員か国に所属する者になるでしょうけど」


「ちゃんと攻略するつもりで自衛隊が出てきてくれれば問題ないんだが」


「あらぁ? ずいぶん、自衛隊を買っているのねぇ」


 吸血鬼である伊東エリックが自衛隊を強いと評することをフランは不思議がったが、エリックからすれば至極当然のことであった。


「ああ、人間は強いよ。そうでなければ、吸血鬼が世界を支配していただろうし。その中でもダンジョンっていう限られた空間で人殺し以外の何かさせるなら、日本の自衛隊は世界でもトップクラスだと俺は思っているよ」


 人殺しの技術で言えば、大国には敵わないがと肩をすくめて見せる。


「自衛隊がちゃんと来るようにくらいなら私の方から圧力をかけるくらいなら出来ると思うわぁ。ただ向こうも準備があるでしょうから、少し時間をもらうわ。その間に、今度はこっちの件もよろしくね~」


「この街に住む、吸血鬼のあぶり出しね。了解」


 一通り話が済み、エリックは帰路に着こうかと考えていると、


「決まったわっ!!」


 という聖女の大声で、思わず振り向く。


「この子の名前は、神の鳥とも言われることがあるから、神鳥でカントリちゃんよ!!」


「そういえば、ずっと雛の名前を考えてたね。カントリってそのまんま……、いや、動物病院とかだと、苗字から、呼ばれるから、もしかし、黒須神鳥でクロスカントリー!? ギャグかよっ!! よくピッタリの感じであったなっ!!」


 ホリィはドヤ顔で、「いい名前でしょ!」と言い放つのだった。


「まぁ、ギャグとしては、その頭の回転の速さは認めるよ。うん。良い名前だと思う」


 エリックは「ペットとしては良い名前だとは思わないが」という言葉を飲み込みながら、話を先に続ける。


「そういえば、次の階層の話ばかりだったが、8Fの攻略報酬は、半々でいい?」


「えっ? ああ、クリア報酬ね。何言ってるの? そんなの全額寄付に決まっているじゃない」


「はぁっ!? ちょっと待てっ!! そっちが勝手に自分の取り分を寄付するのは勝手だが、俺の取り分までなんでやらなくちゃならないんだっ!!」


「そうかしら? でもほとんどのロック鳥を倒したのはアタシよね? だからアタシが全額貰ってもいいと思わない?」


「いや、全然思わないしっ! そもそも8Fに辿り着けたのは俺の功績がかなりあるだろっ! だいたい、縁も所縁もない無い相手に寄付する意味がわからんっ!」


「縁も所縁もあるわよ! あなたはこの街を追い出された人たちに寄付しようという気持ちは微塵もないわけ?」


 ダンジョンの脅威にさらされ、戦えないものは強制的に故郷を追われた。今でも仮設住宅に暮らすものもいるらしく、そこに対しての寄付をこの聖女は申し出る気でいたのだった。


「うぐっ、それを言われると……」


 損して得取れがモットーのエリックとしては、そんな名前が売れるであろう慈善事業と目先の利益は秤に掛けなくてはいけない事柄で、グラグラと天秤が揺れる中、ギリギリで寄付に傾いた。


「わかった。ただし8Fだけだぞ。それ以降はきっちり折半。それから、寄付者の名前に伊東エリックを入れることっ!!」


 ズビッと言ってのけると、聖女はニッと可愛らしい笑顔を見せて、「当然っ!」と返した。

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