第12話「卵で稼ぎまくる」

 怪鳥の味を覚えたエリックはそこからロック鳥の性質を見極め、それに好ましい曲を思い浮かべつつ胸元からハーモニカを出す。そして、太陽に近づこうとして落ちた者の曲を吹くと、次々にロック鳥は空中での制御が取れなくなり、墜落していく。

 口笛よりもより広範囲にその音色は届き、8F全てのロック鳥が対象となった。


 墜落によって強弱の音の雨が降り注ぐ中、両手を広げ、音を紡ぐ様は、さながらオーケストラのようであったのだが、


「ちょっと、勝手に墜落させないでよ!! 狙いずらいじゃない!! 邪魔しないでっ!!」


 という聖女の無粋な声で終了を迎えた。


 しゅんとしつつもエリックは落ちたロック鳥を倒し、ホリィもホリィで武器をハンマーに持ち替え、倒していく。

 こうしてロック鳥の脅威は去った。

 むしろ、この二人がロック鳥の脅威であった。


「あれ? もう居なくなったの?」


 まだまだ余力のあるホリィは、ハンマーを仕舞うと、いつの間にか居なくなったエリックの姿を探す。


「吸血鬼? おーい。伊東屋さーん。死んだ? 死んでたら返事しなさいっ! 生きてたら殺すから出て来なさい!」


 死か死の二択を迫りつつ、しっかりと探す。


 そんな中、エリックの怪しい笑い声がホリィの耳へと届く。


「ふふふっ。計画通り」


「何が計画通りなのよ! もしかして、ここで邪魔者を始末しようとかそういう計画? むしろ、その方がアタシも都合がいいんだけど」


 ホリィの目に入ってきた光景は、エリックが大きな卵を抱え、大事そうにエアクッションで梱包しているところだった。


「あっ! いや、違うんだ。決して卵で料理をしようとかそういう考えはなく、純粋に金儲けだ!!」


「ん? 普通言い訳なら逆じゃない? まぁ、別に卵なら興味ないし、いいわよ好きにして」


「本当かっ!! 良し。それじゃあ、他にもないか探してくる!!」


 あっという間に距離を取ったエリックは次なる卵を探し、徘徊しだした。


「あの吸血鬼が狙うなら、卵も高いのよね」


 ホリィはエリックが置いて行った卵をつんっと、つつく。


 ――ピシッ。ピシピシッ。


「えっ!? 嘘。そんな強い力でつついてないのにっ!」


 その瞬間、卵にヒビが入り、中から片手雛が現れる。


「へっ? 雛?」


 あの巨大な鳥の雛とは思えぬくらい小さい雛はホリィを見ると、親だと思ったのかピーピーとすり寄る。


「……えぇ、モンスターだけど、どうしよう」


 流石に殺すのを戸惑うホリィ。その様子を陰から見守るエリックの姿が。


(ふふふっ。計画通り。孵化しそうな卵を取っているところをあえて見つかり、この展開に持っていけた! 卵をひとつ失うのは痛手だけど、これであの聖女が慈悲の心に目覚めて、俺から手を引いたり、最後に手加減してくれたりすれば、有利になるはずっ! まさに、損して得とれだっ!)


 そう思いつつも、手にはしっかりと卵を二個抱え、梱包まで済んでいる。

 そろそろ頃合いかとホリィの前へと出ていくと、白々しく告げる。


「ホリィにすごく懐いているみたいだ。親鳥を全滅させているから、どうあっても生きていけないよね。冒険者に殺されるか、他のモンスターに殺されるかかな。それにクリア後の外のモンスターがどうなるのかを知るいい機会だし、外に連れて行くのは、そっちの利益にもなるんじゃないかな?」


「そうよね。刷り込みでアタシのこと親だと思っているみたいだし、大きくなったら移動手段にも使えるし、最悪非常食にもなるものね! 師匠に相談してみるわ」


「非常食っていうときが一番力が入っていたんだけど、やめよう。そういうの……。俺、ダンジョンが出来てからの人間の振る舞いで、人間不信になりそうだよ」


 逆にダメージを受けた感はあるが、エリックは全ての目的を果たし、ホリィと共に9Fへの階段を登った。


                ※


 9Fへ上がると、今までと雰囲気が違い、どこか人工的な雰囲気のする空間。そして、祭囃子のような太鼓の音が聞こえてくる。

 その音の方を見ると、木の枝と葉を組み立てただけの家のようなものがいくつかあり、目を凝らすとその先に何やら祭壇のようなものとかがり火が見える。

 その祭壇付近には何やら蠢く影。

 遠すぎて正体までは見えないが、人型のモンスターのようであった。


「何かしら? お祭りでもやっているのかしら?」


「そんなバカな。でも、今までと違ってしっかりと知性があるモンスターだっていうのは分かるな」


 だんだんと太鼓の音が早くなると、なにやら地球の言葉ではない言語がエリックの耳に届く。

 それから、何かで口を塞がれたような人間の息。


 次の瞬間、大きな羽ばたきと共に、飛竜ワイバーンが舞い降りた。


 再び、訳のわからない言語が聞こえたかと思うと、ワイバーンは人間を咥え飛び去っていった。


「ちょっと、今の人間、縛られてなかった?」


「ああ、それからチラっと聞こえたが、あの人間、口に何か噛まされていたけど、確かに、ゴブリンって言っていた」


 9Fのモンスターはゴブリン。そして、そのゴブリンたちはワイバーンに貢物として人間を捧げている邪悪な存在であった。


「このまま、ゴブリンを殲滅するわよ」


 乗り込んで行こうとするホリィを、エリックは急いで止める。


「いやいや、ちょっと待って!! ダメだ。勝手に攻略しようとするなっ! ちゃんと攻略にも手順があるんだよ!! しかも、ゴブリンはまずい。特にまずいんだ。一回外に出て、そっちの師匠とも話合うぞ!!」


 師匠の名前を出されたホリィはしぶしぶながらダンジョンの外へと出るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る