第10話「非合法で稼ぎまくる」
「さて、良い感じに共闘が結ばれた訳だけど、正直、そっちは俺の実力に疑問もあるんじゃないか?」
「いや、ないわよ」
即答の聖女に、エリックは渋~い顔を見せる。
「俺の実力に疑問があるんじゃないか?」
「いや、だからないわよ!!」
「なんでだよっ! 俺が弱かったらどうするつもりだっ!!」
「弱かったら、もう死んでるでしょ! アタシの前に立っているだけで強者よ!」
「なんだ、その価値基準。ちょっとカッコイイじゃないか。いやいや」
これではいつまで経っても話が進まないと思ったエリックは、ホリィを無視して無理矢理に話を進めることにした。
「そこで、俺の実力も見てもらう為に、一緒にダンジョン攻略をしないか? ダンジョンの攻略自体はそっちの目的にも即していると思うし、もし、これから上の階層で吸血鬼がいたら、そこをクリアしたとき、外の吸血鬼がどうなるかも見れると思うんだが?」
「それと、あんたの実力を見せたいのとどう繋がるのよ? ……もしかして、ダンジョンを攻略させたい何かがあるの?」
ここで嘘をついても仕方ないと考えたエリックは、
「ある!」
と正直に答えた。そして――。
「8Fのモンスターはロック鳥という怪鳥だ。そして、そのすぐ上の階層にはワイバーンも控えている。飛べるモンスターは街への被害もデカイ。そんなモンスターを野放しになんて出来ないだろ」
「俺のタワマンの為に」という言葉だけを隠し、説得を試みる。
「それも、そうね。でも、街に潜む吸血鬼はどうするの?」
「大丈夫よ。聖子ちゃん。私が探しておくから~。私は吸血鬼を探す。聖子ちゃんはダンジョンモンスターの流出を防ぐ。そうすれば、すぐに人間の世界が戻ってくるわ」
「吸血鬼の捜索の方は俺の秘書にも手伝わせるから、あとで、情報共有してくれ」
そして、翌日に準備の上、ダンジョン攻略を始める予定を立てると、ようやくエリックは帰路へとついた。
※
「うあぁ~、疲れた~。もう3日分の仕事をしたくらい疲れた~」
愚痴をこぼしながら自宅の地下へと入っていくエリック。
聖女の所為でボロボロになった装備や服を脱ぎ棄てながら、グレイに指示を出す。
「グレイ。聖女と一緒に居たシスターと協力して、今回の事件を起こした吸血鬼を炙り出せ」
グレイはうやうやしく頭を下げながら、
「で、費用はいかほどで?」
「1億だ。明日のロック鳥の稼ぎ見込み全額つぎ込む」
「御意」
秘書グレイはネズミ人間という種族で、その最たる能力は人から人へ情報を伝播させることであった。
グレイが接触した人物が他の誰かにその情報を流すと、自然とグレイへと集まるようになっており、1つの情報を拡散したならば、それはネズミ算式に増え、その全てがグレイの手中へと収まる。
だが、ここ亡鋳半島の住民はタダで情報を寄こすこともないし、ただで情報を流すこともない。その為、資金が必要となってくる。
今回はエリックにしては破格の値段であり、それだけにダンジョンの吸血鬼への注目度が高いことを示唆した。
「あとは明日の装備を出しておいてくれ。吸血鬼の俺の方の」
そのまま、エリックは寝室に向かおうと石畳の廊下を一歩進むと、ガシッと肩を強い力で捕まれる。
「エリック様。ポーションの作成がまだのようですが?」
「……明日めちゃくちゃ働くし、後日にしない?」
「明日の稼ぎはわたくしめに消えるのでは?」
「……ダンジョン攻略の報酬があるし」
ダンジョンのモンスターの素材を売る他にダンジョンを攻略すると、その階層のモンスター関連の商品の1%が攻略者に入るようになっている。
1%と少ないと思うかもしれないが、そのモンスターが素材として売られても、貰え、さらにその後、加工された商品でも貰え、さらに転売されたときにも貰える。つまり、金が発生した際にはどのような場合でも1%入って来るので、その額は案外バカにならないのである。
しかし、ひとつ欠点をあげるとするなら、それは――
「それを得るには時間が掛かりますよね?」
自分が狩った場合は即日貰えるが、その分はグレイの情報料に当てている為、まず研究されて、商品価値が見つかってから、加工などされて商品として売られる。その為、時間がそれなりに掛かってようやく金となるのだった。
「…………」
「…………」
無言の時間が十数秒流れ、とうとうエリックは折れた。
「分かったよ。作ればいいんでしょ。作れば」
そうして始まる、エリックの3分クッキング!
「はい! まずは原料となる薬草。こちらを細かく千切ります。これは鍋に入ればいいので、そこそこにで大丈夫です。次に蒸留器を用意。その中に蒸し皿を入れてから水を入れます。ここで企業秘密なんですが、吸血鬼の血液を数滴。これにより飛躍的に回復量があがります! そして、先ほど切った薬草を入れて、蒸留開始!! あとは蒸留されて出てくるのを待つだけですね」
これが伊東屋で売られるポーションが上級なものと変わらないのに安い秘密の最たるものであった。原材料や比率がそもそも違うものであり、コストも格段に低くなっていた。
蒸留し終わるまでに、明日の準備を整え、ようやくエリックは一息つくことが出来たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます