第9話「協力関係で稼ぎまくる」
伊東エリックはフランに連れられるままに女性が保護されている教会に連行される。
そこで、女性は明らかに電気椅子に見えるような、椅子に座らされ、頭、手足を皮のバンドでしっかり固定され身動きが取れないようになっていた。
女性の目は虚ろで、なにやらボソボソ呟いて、それから急に暴れはじめるというのを繰り返していた。
手首や足首には血が滲み、見ているだけでも痛々しい姿であった。
「……聖職者がこれっていいの?」
エリックは電気椅子を指差し尋ねるが、返答は狂信的なものだった。
「
フランは両手を胸の前に合わせ、祈りを捧げる。
「あ~、なんとなく、この師匠にして、あの聖女ありっていうのが分かった気がする」
全然嬉しくない謎が解け、エリックは頭を抱えた。
「で、その女性。結構強力に洗脳されてるみたいだけど……」
耳を澄まし、この女性が何をしようとしているのか、何を喋ろうとしているのかを探る。
「日中の情報収集と知り合い作り。それで、夜に呼び出すってところかな……。
「で、伊東屋さんは彼女の洗脳を解けるのですか?」
「もう少し時間があれば」
エリックはその女性を10分程しっかりと観察し、おもむろに口笛を吹き始めた。
それは女性を待っている子がいることを思い出させるような。猫のことを唄った現代楽曲で、次第に虚ろな目に光が灯り、暴れなくなる。
エリックの吸血鬼としての能力の1つ。音による催眠があり、相手に合わせた曲を口笛で吹くことにより催眠状態に出来る。それを今回は相手の催眠を打ち消すためにしようしていた。
「ふぅ、これで大丈夫だ――っと」
背後から突き出された、巨大なハサミをギリギリでかわす。
「用が済んだら俺を殺そうって魂胆はバレバレなんだよ。もう少し緊張せずに攻撃してたら当ってたかもって、何その怖い武器っ!!」
「今のを避けるんですね~。そうなんですよ。人型を殺るのは初めてでドキドキ、ワクワクしてしまいましたぁ。こんなんじゃ、いけないですね~」
頬に手を当てて、まるで子供のいたずらに困った母親のような顔を向ける。
「あっ、この武器ですか? ハサミですよ。知らないんですか? あっ、ハサミって開くと十字に見えますから、もしかして初めてだったりします~?」
「ハサミは知ってるよ! 武器として見るのが初めてなんだよっ! 本当にこの師匠あって、あの聖女ありだなっ!!」
「安心してください。もちろん、ハサミに宗教的な意味はないですよ~。ただ、首を刎ねやすい形状が気に入って武器にしてもらったんです~」
「確信的にやってる方が、怖い……」
もはや少し涙目になってきたエリックだったが、すぐに袖で目元を拭いて仕切り直す。
「で、そこのシスターもほぼ認めたと思うけど、俺はダンジョンの吸血鬼じゃない。もともとこっちに住んでる吸血鬼は確かに人間の血を飲む奴もいるが、ほとんどは牛とか豚とか。俺はスッポンが好きだけど。その辺を吸う。人の血だって飲むときはちゃんと輸血パックとか、同意があってとか、人に迷惑が掛からない形でやっているんだ。
それなのに、ダンジョンから現れた吸血鬼はその辺のルールとかモラルとかないから困るんだよっ! そのせいで俺が一番被害を被っているのも許せないしっ!!
タワマン建てたいだけなのに、なんで墓標の方が先に立ちそうなんだよっ!!
って訳で、ダンジョンの吸血鬼を倒すまでは協力しない?」
フランは少し考えてから、一度、ホリィの方を見てから決断した。
「いいわ~。ダンジョンの吸血鬼を倒すまでお互い協力しましょう。そのあとは、私とホリィで貴方を倒します。なので、逃げないというのも条件に付けくわえてほしいのだけど」
「オーケー。じゃあ、その戦闘で俺が勝てば、俺と俺の知り合いには今後手を出さないってことで」
「いいわよぉ。でも、私はともかく、聖子ちゃんには勝てないと思うわよ~」
「確かに、自信に満ちた音がするね。でも、こっちだって負けるとは思ってないからね」
フランは怪しく、エリックは不敵に笑みを浮かべた。
こうして一時的な協力関係が結ばれたのだった。
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