第7話「すれ違いで稼ぎまくる?」

 エリツグがダンジョンに入っている頃、聖女、黒須聖子ホリィはエリツグを街中で見失ってからしばらく辺りをキョロキョロと見回し、探していた。

 しかし、人も多く、とてもではないが一度見失った人物を見つけることは不可能に近かった。

 街は人混みで溢れ、その中をすいすいと進んで行ったエリツグはやはり人外だとホリィは改めて思う。


 諦めず再び周囲を探し、キョロキョロとしていると、そんなホリィに「聖子ちゃん、やっと見つけたわ~」とほんわかとした声が掛けられる。

 振り向くと、そこにはシスター服に明らかに日本人ではない白い肌に金色の髪。まるで聖母マリアを思わせる顔立ちの女性が尋ねる。


「あっ、師匠っ!! えっと、どうしたんですか?」


 ホリィから聖女と呼ばれた女性、フラン=ガーゴは伏目がちに視線を落としてから神妙な様子で答えた。


「それがね。大変なのよ。この前保護した女性がいるじゃない。あの人が急に暴れはじめて。たぶん、吸血鬼による催眠とか隷属化のせいだと思うのだけど……」


「そんな。今はどうしてるんですか?」


「電気椅子、じゃなかった。普通の背もたれとひじ掛けのある椅子に縛り付けてあるわ~」


 のほほんと怖い単語を出すがホリィは気にする素振りも無く質問を続ける。


「元に戻すにはどうすればいいんですか?」


「方法は2つあるのだけど、1つは全身の血を入れ替えることね。暴れていなければそれも可能だと思うのだけど。いよいよとなったら電気、いえ、殴って気絶させるわ。で、もうひとつが彼女を操っている吸血鬼を始末することね。それも完膚なく、血肉の一片も残さずに」


 吸血鬼という存在に並々ならぬ思いがあるのか、声にだんだんと力が入る。


「なるほど。実は師匠、さっきあの伊東屋とかって吸血鬼を見つけたんです! でも巻かれてしまって……」


 見失ったことに責任を感じ、ホリィは珍しくシュンとする。


「そんなことないわよ~。お手柄よ、聖子ちゃん! う~ん、そうねぇ。そのときの彼の格好は覚えてる?」


「確か、野球帽とパーカー、それにすごく大きなリュックだったわ」


「ふ~ん」


 フランは目を細めると数秒考えこみ、すぐに答えを導き出した。


「伊東屋はポーションをこの間売ったばかりで、いかにも外に行きますというような格好。つまり、薬草採取に行っている可能性が高いわね。ホリィちゃん。ダンジョンの3Fあたりかしら」


「なら、そのダンジョンに行きましょう!!」


 逸るホリィをたしなめるようにフランは首を横に振った。


「広いダンジョンではすれ違いになる可能性があるから、ダンジョンの入り口で待った方がいいわ。それに人の目がダンジョンの中では無くなるから良くないわ」


「へ? どうして人の目が必要なんですか?」


「うんうん。そうねぇ。それはね。あの吸血鬼、この街で人間として暮らしているみたいだし、吸血鬼と知られないで過ごすっていうのは、すごい楔よね。人目が無いところで吸血鬼としての力を十全に使われるより、衆人環視の中、力を制限されていた方がこちらも倒しやすいでしょ? なにも動きを止めるのは心臓に突き立てた杭だけとは限らないのよう。確か、日本には良い言葉があったわね。じわじわ殺すって意味で、はらわたで首を絞めるだったかしら? ゆっくり確実に仕留めていきましょ」


「いやだなぁ、師匠。それを言うなら、真綿で首を締めるですよぉ!!」


「ふふっ、そうだったかしら?」


 ホリィは笑顔で師匠の間違いを訂正するが、果たしてそれが本当に間違いで言ったのかは本人以外知る由もなかった。


「それじゃあ、先に行ってま――」


 フランが全てを聞き取ることはなく、ホリィは凄まじい速さで、ダンジョンに向かって疾駆する。そんな聖女を見つめながら、シスター姿の師匠、フラン=ガーゴはうすら笑いを浮かべた。


「主よ。どうか吸血鬼の殲滅にお力をお貸しください」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る