第4話「計画通りに稼ぎまくる?」
エリックがワイバーンを競売に掛け出すと、次々と5000万以上の値が飛び交う。
そもそも研究機関は最安値であり、ワイバーンみたいな希少な個体をそこに売り払うのはこの街の人間なら避けたいところであった。
飛竜とも言われるワイバーンは好事家も多く、爪や牙でさえ高値の取引がされているのに、今回は1頭まるごとである。
ここにいる誰もが、どれだけの値がつくのか分からないでいた。
どんどんと値が吊り上がる中、聖女ホリィは不服な表情を浮かべ――たくても出来ない状況にいた。
聖女の周囲には野次馬が集まり、聖女がいかに討伐したのかを聞こうと我先にと質問してくる。
その質問を
(なんで、倒したのはアタシなのに、あいつが競りをしているのよ!)
などと、思っていたが、矢継ぎ早の質問に抗議の声をあげられずにいた。
しかし、これは彼ら街の住民の計画通りだった。
住民たちは、伊東屋が本当に貢献して倒したかどうかはどうでもよく、むしろ、その手柄をまるで自分のことのようにし、見事聖女の手から競売にした手腕を「良くやった」と褒めるくらいであった。
そして、街の利は巡り巡って自分たちの利になると考える生粋の金の亡者たちの集まりは、すぐさま聖女の口を封じるために数人が動いていた。
もちろん、このときの聖女の話をニュースにしたり英雄譚にしたりして儲けることも忘れない。
それだけしたたかな街にウソのつけない馬鹿正直な聖女は良いカモ、もとい、良きビジネスパートナーであった。
そうこうしている間にワイバーンは、各部位ごとに値段がつき、総額10億もの値がついた。
「いや~、ありがたい! ここはサービスで運搬は伊東屋が無料で請け負いますので、ご安心ください」
エリックは深々と一礼してから落札者の手を握った。
それぞれが撤収していく中、逆に集まった運搬業者に指示を出すと、エリックは静かにその場から立ち去った。
こうして、金も命も手にしたエリックの大勝利でワイバーンの一幕は閉じた。
ホリィがエリックが居なくなったことに気づいたのは、質問攻めを全て律儀に答え終わった1時間後のことだった。
「あ、あの吸血鬼! アタシで金儲けして、その上、堂々と逃げ出したわねっ!! 絶対に、神様の元に送ってやるわ! 覚悟してなさい!!」
誰もいなくなったビル前で聖女の叫びが虚しく響く。
※
「いや~、今日も働いた。働いた。臨時収入もあったし、しばらく身を潜めててもいいかもしれないねぇ」
パタパタと左手で仰ぎながら中流階級程度の一般的な家の廊下を歩く。
廊下には埃一つどころか、装飾の類などもなく、まるでモデルハウスのようであった。
スタスタと歩いて行くと、ワインセラーと札のされた部屋の扉を開ける。
そこには地下へと続く長い階段が用意されていた。
明かりになるようなモノもなく、まるで地獄へと続くような錯覚さえ覚えるその階段をいともたやすく、なんでもないようにエリックは降りて行った。
その地下空間は石造りでまるで西洋の城を思わせる雰囲気であった。ただし、それこそ吸血鬼がいるような古城の雰囲気だったが。
「明日は休むぞぉ! 休みっ♪ 休みっ♪ 休みになったら皆のお給料の計算して♪ 今回の自分の取り分計算するぞ♪」
一般的にそれは仕事の範疇ではと思われることを意気揚々と歌いながら歩むエリックの肩に不意に手がかかる。
「エリック様。明日は薬草採取の仕事があります。本日稼いだからといって日々の仕事を怠ってもらっては困ります。それに10億程度では、まだまだ城の建設費には足りないのですぞ」
年老いた渋い声が背後から聞こえ、エリックはやれやれといった具合に振り向く。
普通ならば真っ暗で輪郭がなんとか分かる程度だが、吸血鬼のエリにはしっかりとその姿が映る。
そこには、グレーのモーニングに身を包む、壮年の男性。エリックの何倍も年を取っているように見えるが、エリックよりも体躯はたくましい。白髪をオールバックにする姿は人間であれば多くの枯れ専の女性を魅了するだろうが、彼には頬のところに3本ずつピンと伸びたネズミのヒゲがあり、それが如実に人外だと訴えていた。
「グレイ。まだ城のことを言っているのか。あれはもうやめると言っただろ! 秘書としての忠告はありがたいけど、そもそも俺が建てたいのはタワーマンションっ!! 城は約150億かかるのに対してタワマンは40億だ。最上階は俺らが住むとしても、それ以外は金になるんだぞ! ただの城より100倍いいだろっ!! それに今のご時世、城なんて建てたらそこに吸血鬼がいますと言っているようなもんだ。そしたら、あの怖い聖女がやってくるんだぞ。グレイは見ていないから平気かもしれないがあれは生で見るとヤバイ! あれ自体が現人神だろってくらいヤバイ! タワマンより先に俺の墓標がまた建っちゃう!!」
エリックは過去に城を立てようと吸血鬼の力を使い荒稼ぎして、その際に、他のモンスターや人間から総攻撃に合い、あえなく撃沈。そして封印という名の墓標が建てられ、5年後にグレイによって助けられるまで狭くて暗い棺桶の中で過ごしたのであった。しかも、エリックの父であるエリートも似たような経験を何度もしており、それがトラウマでエリックは目立たず清く正しい商売を行うことを心がけている。
「ふむ。では仕事はなさらないと? ついでに今回のワイバーンの取り分ですが、エリック様は10億と喜んでおりましたが、聖女の方が上手のようですよ」
グレイはiPadを取り出し起動すると闇の中、そこだけが怪しく光を放つ。
その画面には、請求書の文字が躍る。
「何? この請求書ってやつ。俺なんかしちゃいました?」
「ワイバーンによって破壊されたビルの一部と道路の修繕費に9億の請求が来ています」
「はぁ!? 9億? 高すぎるだろっ!!」
「聖女が、好きなだけ直すと良いと。修繕費は伊東屋が持つと公言されたようです。で、それにかこつけて他のところも修繕費と称して請求しており、その全てを聖女が受諾しているようですね」
「く、うぅう!! それじゃあ、移送費とか人権費とか抜いたらほとんど残らないじゃないかっ!! くそっ!! 金の亡者どもめっ!!」
「何を今更仰いますか」
喚き散らすエリックに呆れた様子のグレイだった。
「で、どうなさいますか? 明日は休んで、ご自身の取り分を計算いたしますか?」
「そんなんしたら、俺、泣いちゃうよ。それはグレイに任せて、気分転換に薬草を摘みにいくよ」
「ええ、それがよろしいかと。先代のエリート様も金は稼げるときに稼げ、絞れるだけ絞れと仰っていました」
「確かに父は稼ぐのは天才的だったけど、それゆえ、敵も多かった。結局は毎回失敗していたしね。だから、俺は損して得を取る。人情に訴えかけて最後に得をとれる金稼ぎがいいんだよ。タワマンはその最高峰だろ!」
ここ日本において、最強の吸血鬼と言われたエリート、その知名度は、日本という島国においては串刺し公ドラキュラに次ぐかもしれない。そんな
「ところで、やはりタワマンより城になさらないですか? 城ならばダンジョンごときのモンスターに壊される心配もないのですぞ」
「えっ、待って、どういうこと?」
エリはiPadの請求を見ると、その中の1つにタワーマンションがあり、ワイバーンの羽ばたきでガラスが割れたとの請求が上がっていた。
「これ、もしかして、ダンジョン攻略しないとお金が溜まってもタワマン建てられない?」
同意の意を込めて、グレイは深々とお辞儀をする。
「お金も貯める。ダンジョンも攻略する。どちらも行えてこそエリートかと」
「はいはい。薬草採取がてら、ダンジョンの様子も見てきます」
エリックの休みは予定通り無くなり、薬草採取する為の準備を始めるのだった。
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