「愛してる」の手話(サイン)

口羽龍

「愛してる」の手話(サイン)

 友梨佳(ゆりか)は高校3年生。ロン毛の優しい高校生だが、友達は少ない。周りに親友はおらず、いつも寂しそうにしている。見た目はいい子っぽいのに、友達がたくさんできそうなのに。それには理由がある。


 友梨佳な生まれつき耳が全く聞こえない。そのため、声が出せない。そのため、友梨佳は手話で話している。だが、手話を使える人は先生ぐらいしかおらず、わからない人が多い。


 そんな友梨佳の両親は聾学校に進むように勧めた。だが、健常者と一緒に学校生活を送りたいという願いから、通常の小中学校や高校に進学した。友達はできなかったものの、成績は優秀で、いつも先生に褒められている。だが、友達からは冷たい目で見られる事が多い。耳が聞こえないのに、どうしてこんないい成績を残せるんだろうと。


 友梨佳には高校生になって好きな人ができた。直樹(なおき)という同じクラスの男だ。だが、声が出せないがために、好きだと言えない。そう考えると、友梨佳は泣けてきた。もし、耳が聞こえて、声が出せたら、好きだと自分の声で言えるのに。だが、それは叶わない事。自分は何も言えないまま一生を終えてしまうんだ。


 それを言えないまま、もうすぐ卒業だ。1年の頃から好きだったのに、全く言えない。直樹は東京の大学に進学して、来月は引っ越してしまう。言えないままに恋は終わってしまうんだろうか? 中学校に続き、高校でも恋が芽生えないまま終わってしまうんだろうか?


 今日の授業を終え、友梨佳は教室にいた。直樹も教室にいる。だが、誰も友梨佳に遊ぼうとしない。とても寂しい。このまま高校の3年間も終えてしまうんだろうか?自分も告白したいな。


 友梨佳はは勇気を出して、直樹の肩を叩いた。突然肩を叩かれた直樹は驚いた。まさか、友梨佳が絡んでくるとは。


「どうしたんだい?」


 友梨佳は手話で直樹に、愛してると言った。だが、直樹は首をかしげた。直樹は手話を知らない。


 その直後、直樹は荷物をまとめて、教室を出て行った。友梨佳はその様子を寂しそうに見ている。結局、今日も告白することができなかった。自分はこのまま、告白できないままに一生を終えてしまうんだろうか?


 帰る途中、直樹は考えていた。友梨佳のあの手の仕草は何だろうか? 友梨佳は耳が聞こえずに、手話を使っている。手話を覚えれば、何とかなるんじゃないかな?


 その夜、自分の部屋で直樹は考えていた。友梨佳は一体何と言っているんだろうか? 全くわからない。


「何て言っているんだろう」


 実は直樹も友梨佳の事が好きだった。だが、友梨佳に伝える事ができない。友梨佳が聴覚障害者だってことは知っている。


「手話じゃないかな? あの子、耳が全く聞こえないの。だから、声が出せずに、手話で話してるの」


 誰かの声に気付き、直樹は横を向いた。そこには友人の晴斗(はると)がいる。晴斗は友梨佳が聴覚障害者だという事を知っている。


 やはり手話かもしれない。手話を覚えようとは思っていなかったものの、友梨佳に告白するには手話ではないと伝わらない。


 その時直樹は決意した。今からでもいいから手話を覚えたい。友梨佳に告白するためにはそれしかない。すでに大学受験は決まっていて、受験は終わっている。今からでも間に合うかもしれない。告白するために、一生懸命頑張ろう。


 それからしばらくして、直樹は帰る事にした。自転車で帰る途中でも、考えているのは友梨佳の事だけだ。好きなのに伝える事ができない。帰り道の途中にある書店に立ち寄って、手話の本を買ってみよう。今日から手話を勉強して、告白できるようにしよう。


 直樹は家までの途中にある本屋に立ち寄った。手話に関する本はあるんだろうか? 直樹は本屋に入り、探す事にした。


 しばらく探していると、手話の本を見つけた。ただ、数冊だけだ。それほど興味がないんだろうか? だが、それは友梨佳に告白するため。


 通常より20分遅れで、直樹は帰宅した。すでに父は帰っていて、父の車が停められている。もう辺りは暗くなり始めている。家の明かりが点いている。


「ただいま」


 直樹が家に入った。すると、母がリビングからやって来た。いつもより遅かったためか、母は心配しているようだ。


「遅かったじゃないの。何をしてたの?」


 いつもより少し遅い。何をしていたんだろうか? とても気になった。


「何でもないよ」


 直樹は黙っていた。聴覚障害者の友梨佳が好きなんて、母が認めてくれるはずがない。普通の人と結婚しろというに違いない。


「そう」


 母はリビングに戻っていった。直樹は2階に向かった。2階にある部屋に荷物を置くようだ。


 直樹は2階の自分の部屋に入り、本屋で買ってきた手話の本を見た。中には様々な手話が載っている。その中には、友梨佳がよく使っている手話もある。これなら、友梨佳に思いを伝えられそうだ。




 それからの事、直樹は手話に関する本を読みながら、手話を覚えていった。最初、両親は変な目で見ていた。だが、友梨佳の言っている事がわかるために頑張っているんだろうと思うと、応援したくなったという。


 直樹は夜まで勉強をしている。もう大学が決まったのに、定期テストはないのに。ただ友梨佳に告白したいがために手話を勉強していた。


 しばらく読んでいると、ある程度わかってきた。手話はこんなにも奥が深いとは。


「手話の本、読んでるの?」


 直樹は横を振り向いた。母がいる。母は心配そうな表情だ。


 母は驚いた。まさか、直樹が手話の本を読んでいるとは。


「うん。友梨佳が好きで、付き合いたいんで」


 直樹は笑みを浮かべた。好きは友梨佳の事を考えると、笑顔になってしまう。


「告白したいの?」


 手話の本を読んでいるのを見て、母は友梨佳に告白したいんだろうと思った。


「うん」


 直樹はうなずいた。直樹は少し戸惑っている。こんな恋、認めてくれないだろう。


「頑張ってね」


 母は部屋を出て行った。母は笑みを浮かべた。手話を覚えようとしている直樹を応援しているようだ。直樹は嬉しくなった。母のためにも、絶対に告白しよう。


 その夜、直樹は考えた。卒業式の日、告白しよう。その日言えなかったら、もう友梨佳に会えないかもしれない。4月からは東京で大学生活だ。東京に旅立つ前に言っておかないと。これが最後のチャンスだと思っている。




 卒業式の日、最後のホームルームが終わり、直樹は教室にいた。直樹の机の上には卒業証書の入った筒と卒業写真が置いてある。


 教室には自分と友梨佳の他には誰もいない。友梨佳は窓から外を見ている。迎えの車が来るのを待っているようだ。友梨佳は暇そうにしている。とても寂しそうだ。寂しい思いをしているから、自分が何とかしないと。


 直樹は友梨佳に近づいた。それに気づいた友梨佳は振り向いた。友梨佳は驚いた。近づいて、どうしたんだろう。


「ずっと君の事が好きだった。愛しているよ」


 直樹な手話を交えながら告白した。友梨佳は驚いた。まさか、手話ができるとは。手話なんて、このクラスでできる子はいないと思っていた。


 直樹は友梨佳を抱きしめた。抱きしめられるなんて、母以外では初めてだ。恋って、こんなにも嬉しい事なんだ。


 その時、友梨佳は外を見た。迎えの車がやって来た。直樹は抱くのをやめ、帰るねと手話で伝えた。


「じゃあね、また会おうね」


 手話をしながら友梨佳に伝えると、友梨佳は笑顔で答えた。どうやらわかっているようだ。


 来月から直樹は東京に行く。遠距離恋愛になるけど、時々会おう。そして、互いの愛を両手で確かめ合おう。


 だが、友梨佳は手を動かした。私も東京の大学に進学するの。一緒に住もう。


 直樹は驚いた。まさか、友梨佳も東京の大学に進学するとは。様々な困難があるけど、2人の愛の力で乗り切ろう。愛の力は誰にも負けないはずだ。


 すると、友梨佳は直樹を抱いた。友梨佳は笑顔を見せた。笑顔を見せるなんて、何年ぶりだろう。


 その時、校舎のチャイムが鳴った。まるで2人の愛を祝っているようだ。2人はとても嬉しくなった。これから僕たちのラブストーリーが始まる。どんな困難があっても、2人で乗り越えていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「愛してる」の手話(サイン) 口羽龍 @ryo_kuchiba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説