38,お母さんの知り合い

 レンの腕の傷は、幸いなことに大事にはいたらなかった。

 かけつけたトノザキ先生の話によると、教室にできた魔界ホールも、今日中に四聖が来て閉じてくれるらしい。

 よかった。

 無事にクロコロを追い払うことができて本当によかった。

 そう思ったら気が抜けたのだろう。

 私の血液が頭にめぐってこなくなる感覚とともに、目の前が真っ暗になっていくのがわかった。

 やばい、立ちくらみだ。

 そう感じたときにはもう遅かった。

 私はその場でばったりと倒れてしまったのだ。

「アオイ、だいじょうぶ!」

 女子の声が遠くで聞こえた。

 あの声は……、あの心配してくれている声は……、ミチカだ……。

 そんなことを感じながらも、私はすぐに教室の床から立ち上がろうとする。

「立たなくていい! そのまま横になっていろ!」

 今度はトノザキ先生の声が聞こえてきた。


 保健室に連れてこられた私はすぐさまベッドへと寝かされた。

 どのくらい横になっていただろうか。

 少し眠ってしまったのかもしれない。

 気がつけば窓の外が薄暗くなっていた。

「目がさめたね」

 私は声のする方を見る。

 そこにはトノザキ先生がいた。

 そして……。

 トノザキ先生の横には、なぜかアキコさんもいた。

「アキコさん、どうしてここに?」

「ああ、うん……」

 アキコさんが言いよどんでいると、隣のトノザキ先生が口を開いた。

「教室にできた魔界ホールを閉じてもらったんだよ。無事に閉じられたから、明日から安心して学校に来ていいぞ」

 魔界ホールを閉じる?

 それって、四聖じゃないとできないことでは……。

 やっぱり、そうなんだ。

「やっぱり、アキコさんって四聖の一人、アキ様だったんですか?」

 私は驚きながらたずねる。

「もう、トノザキ君」

 アキコさんは観念したように言う。

「アオイちゃんには内緒にしていたんだからね。私、普通のおねえさんでいたいんだから」

「そうなんだ、でも、おねえさんかどうかは微妙だよね」

「どういう意味! おばさんとでも言いたいわけ!」

 そう言って二人は笑っていた。

 こんなことを言い合えるなんて、アキコさんとトノザキ先生、かなり仲がいいんだ。

 アキコさんは昔、トノザキ先生のことが好きだったと言っていたけど、今はどうなのかな?

 ふと、そんなことを思った。 

「で、アオイちゃん、クロコロを雷魔法で追い払ったんだってね」

 アキコさんが感心したように言う。

「しかも、二体を追い払うなんて」

「たまたま、うまくいっただけです。運が良かったんです」

「そんなことないわよ。運だけで雷魔法を二連続で成功させることはできないわ。しかもあんな切羽詰まった状況で。これは間違いなくアオイちゃんの実力が上がってきている証拠よ。雷魔法、自分のものになってきているわね」

「そうかな……」

 四聖にほめられると、なんだか照れくさい。

「あ、そうそう」

 アキコさんは思い出したようにこんなことを言ってきた。

「いっしょに来ている四聖の一人がアオイちゃんにぜひ会いたいと言っているのだけど、かまわない?」

「……はい」

 四聖が私に会いたい?

「じゃあ」

 そう言ってアキコさんはもう一人別の女性を保健室に連れてきた。アキコさんより少し若く見える女性だった。髪が長く、背の高い人だ。

「はじめまして、あなたがアオイちゃんね」

 その女性はほほえみながら私に話しかけてきた。

「小学生で雷魔法なんてすごいわね」

「い、いえ、そんなことは……」

 魔法使いのあこがれでもある四聖と話ができるなんて、やっぱり緊張する。

 私がはにかんでいると、その女性はびっくりすることを言ってきた。

「さすがはユキコさんの娘さんね。天才の血をしっかりと引き継いでいるのね」

「お母さんの血を引き継いでいる?」

 この人、お母さんのことを知っているのだろうか……。

「私は、子供の頃、あなたのお母さんに魔法を教わったことがあるのよ。ほんと、すごい魔法使いだったわ」

「……」

「今日は、ユキコさんの娘さんにどうしても会いたくて、アキコさんに無理を言ったのよ。私のあこがれの魔法使いの娘さんがどんな子か会いたかったの。予想どおり、ユキコさんにそっくりのかわいい女の子だわ」

 かわいいだなんて、ちょっと照れる。

 その後もみんなと会話を続けたあと、アキコさんがあらたまって言った。

「さあ、アオイちゃんは疲れているんだから、私たちはそろそろおいとましましょうか」

 アキコさんは私に手をふると、トノザキ先生に視線を合わせた。

「あとはトノザキ君、たのんだわよ」

 そんな言葉を残して、二人の四聖は保健室をあとにしたのだった。

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