37,二人の力
「ミチカお願い! クロコロに氷魔法をかけて!」
とっさに私はそう叫んだのだった。
「どういうこと? どうしてクロコロに氷魔法を?」
ミチカはわけがわからない様子だ。
「説明はあとでするわ。お願い、あの二体に氷魔法を!」
切迫した私の言葉から、ミチカは何かを感じ取ったのだろう。すぐにこう答えた。
「わかったわ。魔法杖がないけどやってみる」
ミチカはすばやく人差し指を天に向けた。
急にクロコロに襲われ、誰も杖など持っている者はいない。難しい技術となるが、魔法をかけるなら杖ではなく指で行うしかないのだ。
スッと冷気がミチカの指に集中している。
「アイス・バインド!」
その声とともに、ミチカが指をクロコロたちに向けて振り下ろした。
バリバリバリ!
空気の裂ける音がした。その音とともに、新たな氷のかたまりがクロコロを包む。
ミチカの氷魔法が、見事にクロコロへと命中した瞬間だった。
よし、これで私は氷魔法から開放される。
全神経を集中させて雷魔法を打つことができるわ。
でも……。
雷魔法は一極集中型の魔法。
クロコロ二体を同時にあてることはできない。
つまり、クロコロ二体を撃退させるには雷魔法を二回打つ必要があるのだ。
失敗はゆるされない。残された時間はほんのわずかだ。いくらミチカとはいえ、そう長くは氷魔法をかけ続けることなどできないだろう。
だったら。
そう。だったら、二回連続で雷魔法を成功させるしかない!
私の雷魔法が成功する確率は十回に一度。それを連続して二回成功させる確率は、たしか百回に一度しかないはず。
百回に一度。そんなこと、できるの?
不安が襲ってくる。
私は、小さくうずくまっているレンに目を向ける。
でも、このままではレンは、そしていずれは私たちも……。
やるしかない!
確率なんてむずかしいこと、今は考えなくてもいい。私を救ってくれようとしたレンを助けるためにやるしかないじゃない。
雷魔法、絶対に成功させてやる!
私は両手を大きく広げ、地球上の四つの属性を味方につけはじめた。
アキコさんに教わった最高難度の技。お母さんが得意だった雷魔法。
水と風をかけ合わせ、そっと火を入れる。最後は思い切って土属性をかき混ぜる。
さあ、やるわよ!
出てちょうだい! 私の雷魔法!
お母さん、お願い! 私に力をかして!
浮かんでくる思いを心の中で叫びながら、私はレンに飛びかかってきているクロコロめがけ指を振り下ろした。
さあ、お願い!
成功して!
私の指先が、黄色く閃光した。
次の瞬間、電雷が天井から落ちた。
「ガガ」
クロコロは短くうなり声をあげる。
やったの?
雷魔法、成功したの?
そう思っている時だった。
クロコロがフラッシュのように発光しながら、スッとその姿を消してしまった。つまり、魔界に逃げ帰ったのだ。
やった! やったわ!
十回に一度が起こった!
無事に一回目の雷魔法は成功した。
でもまだ足りない。喜んでいるひまはない。
もう一度、次は百回に一度の奇跡を起こさなければいけない!
私はもう一体のクロコロに指を向ける。
さあ、難しいことは抜きにして、同じことをくりかえせばいいだけのことよ!
あらためて気持ちを集中させている時だった。
「だめよ、もう持たないわ!」
ミチカの声だった。
そうだ、難度の高い氷魔法をかけ続けるにも限度がある。時間が残されていない。
すばやく二度目の雷魔法を打たなければ……。
けれど、否定的な考えが私の行動を邪魔してくる。
雷魔法を、二度連続で成功させる確率は百回に一度……。そんなこと、本当に可能なの……。
失敗するイメージが頭に浮かんできてしまう。私は必死にその映像を払いのける。
もう、やるしかないじゃない!
レンを救うため、みんなを救うため!
私は覚悟を決めた。
すばやく両手を広げた私は、大気から四属性を集めはじめる。
「アオイ、もう限界よ!」
ミチカの声。
急がなければ! でも、あせったらだめ。一回で成功させないと……。
クロコロの氷の膜が薄れてきている。
今まで固められていた魔物が再びキバをむいた。
「きゃー」
クロコロが動き出し、女子の叫び声が聞こえたのと同時だった。
「サンダー!」
私はそう叫び、指を振り下ろした。
お母さん、大切なレンを、そしてみんなを守って!
そう願った時、天井から再び雷が落下した。
黄色い光が、一直線に降下する。
「グゴゴ」
クロコロがうなり声をあげた。
時間が止まったように、何もかもが静止して見えた。
そんな中、発光したクロコロだけが、スッと姿を消した。
間違いなかった。
雷が命中したクロコロが魔界に逃げ帰ったのだ。
百回に一度が実現した瞬間だった。
や、やった!
成功だ!
無事に二度目の奇跡も起こせたわ!
今までの騒ぎがうそだったかのように、教室内に静かな時間が流れ始めている。
そんな中、ミチカのポツリとつぶやく声が聞こえてきた。
「アオイが一人でクロコロを追い返すなんて……、信じられないわ……」
ほっとした私は、力つきその場に座り込んだ。
そしてミチカに言う。
「私一人の力じゃないわよ。ミチカが協力してくれたおかげでできたことよ」
その言葉を聞いたミチカが、小さくうなずき微笑んだ。
そんな私たちを見ながら周りの生徒がつぶやいた。
「すごい……。ミチカの氷魔法もすごかったが、それ以上にアオイの雷魔法は神業としか言いようがない……。二連続の成功だなんて……」
「しかも、二人とも杖なしで出していたぞ。高名な魔法使いでもあんなこと出来ないよ……」
「奇跡だ、まさに奇跡が起こったとしか思えない」
「そう、その奇跡のおかげで、僕たちは命びろいしたんだ……。すべてはアオイとミチカが起こした奇跡のおかげだ……」
みんな放心状態になりながら、そんなことをつぶやいていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます