30,行き違い
「レン君はいいよね。大好きなミチカとまた映画のワンシーンをみんなに披露できるんだから」
私はちょっと捨て鉢になりながら、そう言った。
今回の演目はアラジンだ。レンとミチカが座布団なみの小さなじゅうたんで、体を近づけ合いながら空をただよっている姿が浮かんでくる。正直、そんなシーンなど見たくない。
「楽しいことなんてないよ」
レンは照れているのか、心にもないことを言ってくる。
「クラスのみんなが楽しんでいるだけで、僕はそんなに楽しくないから」
「よく言うよ。タイタニックのとき、とろけそうなくらいに幸せそうな顔をしていたわよ」
ああ、どうして私、感情的な言い方になっているんだろう。
レンのことなんか興味ないくらいの態度でいたいのに。
「単にはずかしかっただけだよ。別に楽しくもないし幸せでもなかったよ」
レンはそう言うと、もう一度私に聞いてきた。
「で、アオイちゃんは、今回誰に投票するの?」
「まだ決めてない」
私がそう答えると、レンはびっくりするようなことを言った。
「また、ムラタに入れるの?」
ムラタとは、前回私が入れた男の子の名前だ。レンが一位になるのを阻止するために投じた一票なんだけど。
でも、どうして……。
「どうして、そんなことを知っているの? 私が誰に入れたかなんて、なんでレン君が知っているの?」
私は驚きながら、そして不快な気持ちになりながら問いただす。
「う、うん」
レンは私の勢いにびっくりしたのか、少し引き気味で言った。
「たまたま、見えたんだ。アオイちゃんの書いた紙が……」
たまたま?
レンとは席が離れているのに、たまたまなんてありえない。
「たまたまなんて、うそよ。どういうことか、どうして私の入れた人を知っているのか、本当のことを言って。じゃないと、もうレン君のこと信用できない!」
「……」
レンはしばらく黙っていたがぼそりとこんなことを言った。
「あとで、投票した紙を見せてもらったんだ。そしたらアオイちゃんの筆跡でムラタと書かれた紙を見つけたから……。それで、アオイちゃんが誰に入れたかわかったんだ」
「ひどい!」
「ごめん」
「ごめんですまない! あとで紙を見せてもらうなんて、そんなひどいことしているなんて!」
冷静さを失った私は、声を高めて言った。
「もう、レン君のこと嫌い!」
そして黙り込む。
レンも何を言ったらいいのかわからない様子だ。
「もう帰る!」
しばらく黙ったあと、私は立ち上がった。
「もう算数は自分一人で勉強するし、明日からは一人で登校するから!」
私は玄関に向かって歩きだした。
レンも黙って後ろをついてくる。
最悪だった。
「どうしたの? 何かあったの?」
レンのお母さんが驚いたように声をかけてきた。
レンのお母さんには本当にお世話になっている。なんと言えばいいのか言葉がでてこない。
そう思っていると、ふと涙があふれてきた。
「アオイちゃん、どうしたの?」
「ごめんなさい、おばさん」
それだけ言うと、私は逃げるようにレンの家を後にした。
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