29,百分の一の確率
レンの家に入ると、すぐにレンのお母さんが迎えてくれた。
「今、病院に電話していたところよ。アオイちゃんのおばあさん、順調に回復してるから大丈夫だって」
「良かったね」
レンもすぐにそう言ってくれる。
でも、本当は病院に行きたかったな。行って、おばあちゃんに会って話しをしたかった。特待生に推薦されることも報告したかったし。
そんな私の思いが顔に出ていたのだろう、レンのお母さんがこんなことを言ってきた。
「次の土曜日、学校が休みだから、また一緒に病院に行きましょうね」
うれしい。
おばあちゃんに会える。
けど。
これほどレンの家にお世話になりっぱなしでいいのだろうか?
今までも、レンのお母さんにどれだけ助けてもらったことか。
「いいんですか……。おばさんに迷惑ばかりかけてしまって……」
「もう、アオイちゃん、子供がそんなこと心配してはだめなのよ。困ったときはお互い様なんだから」
レンのお母さんはそう言ってから、こんなことを付け足した。
「レンも、大好きなアオイちゃんの力になりたいみたいだし」
大好きなアオイちゃん?
おばさん、前もそんなこと言っていたけど、違うんだけど。
レンの大好きな人は他にいるんだから。
レンの好きな人はミチカなんだから。
「もう、お母さん、変なこと言わなくていいから! 勉強するんだからあっちに行ってよ!」
レンがあわてた様子でそんなことを言っている。
「はいはい、じゃま者は消えますね」
ちょっと、うらやましい。
こんなことを言い合えるお母さんがいるんだから……。
リビングで二人になり、算数の教科書を広げる。私は筆箱からシャーペンを取り出し、勉強の体勢に入る。
「じゃあ、はじめるね」
レンはそう言うと、早速こんなことを言ってきた。
「前に、アオイちゃんがこんなことを言っていたよね。雷魔法が成功するのは十回に一度くらいだって」
「うん」
「それは十分の一の確率なんだ」
十分の一。
苦手な分数だ。
「じゃあ、十回に一度の雷魔法が、二回連続で成功するのは何回に一度だと思う?」
レンは具体的な話で、わかりやすくしてくれているのだろうけど……。
私は考える。
たまにしか成功しない雷魔法が一回成功して、また成功するにはってことだよね。
それなら、だいたい……。
「二十回に一度くらい?」
「はずれ」
レンはそう言うと紙に分数の計算式を書きはじめた。
十分の一かける十分の一は、百分の一。
頭がくらくらするが、レンはお構いなしに進める。
「雷魔法が二回連続で成功するのは百回に一度だけなんだ」
「ええ! 百回に一度!」
私は驚いてしまう。
そんなに難しいんだ。二回連続の雷魔法は……。
それにしても、レン、すごすぎる。この子、算数の天才だ。
その後も、私は今習っている分数の計算についてレンに教えてもらう。
「ありがとうレン君。やっぱり一人で勉強するよりレン君と一緒のほうが断然いいよ。でも、レン君、こんなことに付き合わせて迷惑なんじゃない?」
「ぜんぜん迷惑なんかじゃないよ。僕もアオイちゃんと一緒に勉強できて楽しいから。それに何があってもアオイちゃんには特待生になってもらわないと」
そんなことを話しながら一段落しているとき、レンが急にこんなことを聞いてきた。
「アオイちゃんは誰に入れるの?」
「ん? 何のこと?」
「ほら、明後日行われるクラス投票」
そうだった。クラス投票がもう明後日にせまっている。女子生徒が好きな男子生徒を投票で一人選んで、同じように男子が女子を選ぶ。それで、二人が映画のワンシーンを演じるあれだ。
レンとミチカのタイタニックがまた頭に浮かんでくる。
どうせまた、レンとミチカが選ばれて……。
そう考えると、なんだか暗い気持ちになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます