24,人気投票
職員室を出て、教室に戻る。席につくとすぐに隣に座るマリが声をかけてきた。
「先生の話って、何だったの?」
「うん」
答えようかどうか迷ったが、どうせすぐに皆に知れ渡ることだしと思った。
「私が特待生に推薦してもらえることになった」
「特待生に!」
マリの声が予想外に大きく、クラスの生徒たちが集まりはじめる。
「アオイが特待生に!」
みるみるうちに、クラス中にその話が広まってしまった。
「どうしてアオイが?」
「そうだよ。特待生はミチカだろ」
そんな声が聞こえる中、私はミチカの姿を探した。
ミチカは素知らぬ顔でミドリたちと話している。
彼女の姿を見て、この話題をここで話すのは良くない気がしたが、もう遅かった。
特に一部の男子生徒が大喜びで阿波踊りをはじめてしまっている。そんな男子生徒の中にレンの姿もあった。
本当なら、マリよりも先にレンに報告するべきだったな。試験ではあんなにも助けてもらったんだから。
そう思ったが、これももう遅い。
踊っているレンに、私は目を合わせて軽くうなずいて見せた。するとレンもうなずき返す。
もうこれだけで心が通じた。
私が特待生に推薦されたことをレンは心から喜んでくれている。そして、私が魔法学校をやめずにすむことを祝ってくれている。
なんだか私たち、恋人みたい。
ふと、そんなことを思ったがすぐに訂正した。
私は、レンの好きな人を知っているのだ。
レン本人から聞いたから間違いない。レンは私にこう言ったのだ、「ミチカちゃんが好き」と。
ミチカは私よりずっとキレイだし、勉強もできて、クラスの人気ナンバーワンだし。レンとは本当にお似合いだ。
家が近いだけの私が入り込むスキなんて無いんだから……。
そんなことを思っているときだった。
隣のマリが再び声をかけてきた。
「そうそう、アオイ、またクラス投票することになったわよ」
「ふーん」
興味なさそうに答えたが、実際は興味大ありだ。
クラス投票というのは、先生たちには内緒で行う人気投票で、男女の人気一位を決めるものだ。
前回は三ヶ月前に行われ、あのときはほんとにショックだった。
人気投票一位の男女は、映画やテレビドラマの人気シーンを二人で演じることになっている。で、そのときはタイタニックを再現することになっていた。豪華客船の先で、二人が重なって手を広げ、鳥のようになるシーンを行うことになっていたのだ。
案の定というか、予想通りというか、投票で選ばれたのはレンとミチカだった。
確かに二人は人気があって、レンがミチカを気にしていることもクラス中が承知している。そんなクラス中の気持ちが相まってしまうと、選ばれるのは当然二人で、みんなも二人のタイタニックに興味津々だったわけだ。なので、二人が選出されることは投票する前からわかっていたが、私だけはレンには投票しなかった。男子はミチカを選ぶだろうと思ったので、私はあえてレンの名前を書かずに別の男の子の名前を書いたのだけど……。
そんな抵抗もむなしく、結局二人は選ばれ、クラス全員の前でタイタニックをやったのだ。
ミチカの後ろからレンが体を近づけて、ミチカの手を持ち、大空に羽ばたくように両手を広げたのだ。
クラス中の生徒が大喜びで、二人を冷やかしていた。
でも……、私だけは喜べなかったのよね。あんなに照れてうれしそうなレンを見るのは……。
そんなクラス投票がまた行われるなんて。
あの悪夢が再びよみがえってくる。
私は、恐る恐るマリに聞いた。
「今回は何の映画を演じるの?」
「アラジン」
「アラジン?」
「そう、アラジンの魔法のじゅうたんに乗って二人で空を飛んでもらうのよ。ちなみにじゅうたんは、座布団並みの小ささらしいわよ」
座布団並みの小さなじゅうたんに二人が乗るなんて……。
レンとミチカがくっついている姿が目に浮かんできた。
せっかく特待生に推薦してもらったのに、良いことばかりは続かない。
私はそう思ったのだった。
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