23,特待生に

(アオイ視点)


 魔法実技試験が終わった次の日、私はトノザキ先生に呼ばれ職員室へと向かっていた。

 話ってなんだろう。

 でも、ちょうど良かった。私も先生に話さなければならないことがあるし。

 そう。

 もう、特待生にもなれない私は、魔法学校をやめるしか道は残されていない。これ以上、お金のない私が、ここにいるわけにはいかなかった。

 職員室の扉を開けると、先生たちが私を注目した。

 昨日、雷魔法を披露してみんなをびっくりさせてから、先生や生徒たちの私を見る目が変わってしまった。どこか、芸能人にでもなってしまったような注目度なのだ。

 私は、先生たちの視線を感じながら、体を小さくしてトノザキ先生の席へと向かった。

 「アオイ、すごかったぞ」

 途中、基礎魔法の先生が声をかけてくれた。

「ありがとうございます」

 蚊の泣くような小さな声で私は答える。

「ほんと、アオイちゃん、よくやったわね」

 一般教養の先生までもが話しかけてくれた。

「そ、そうですか……」

 私は逃げるように前へと進む。

 トノザキ先生の席までたどり着くと、先生は楽しそうに声をかけてきた。

「一気にこの魔法学校の主演女優になったみたいだな」

 主演女優か……。

 うまいこと言うけど先生……、もう私、この学校やめるんだけど……。

 さあ、言いにくいことは早く言ってしまおう。どちらにしても、もう前に言っていることなんで、先生も知っていることだし。

「先生、私、もうすべてやりきりました。昨日の試験ですべてやりきりましたので、もう魔法学校を……」

 トノザキ先生は私の言葉を最後まで聞かず、さえぎるように話しかけてきた。

「アオイ、実はお前を特待生に推薦できそうなんだ」

「えっ?」

「お前を特待生に推薦できそうなんだ」

 特待生?

「特待生って、魔法実技試験で一位にならなければいけないんじゃ……。一位はミチカで、私ではないし」

「そのミチカだが、特待生の推薦を断ってきたんだ」

「ミチカが断った?」

「そうだ。それでアオイに話が回ってきたわけだ」

 ミチカの家は裕福だから、特待生なんかに興味ないのかな?

 でも、特待生はお金だけの問題ではない。

 魔法学校の特待生とは、実質その学年一位の証明でもあるはず。その名誉ある特待生をミチカが断るなんて。どうして……。

「推薦されれば、アオイが特待生になれることは間違いない」

 トノザキ先生はそう言ってから付け足した。

「だから、もうアオイが魔法学校をやめる必要などないんだ」

「私、まだ魔法を続けられるの?」

「そうだ。まだ続けられる」

「私……」

 びっくりしたのか、うれしかったのかはよくわからない。

 自然と私の目からは涙があふれてきてしまった。

 大好きな魔法をあきらめようと決心してこの職員室に来たのに……。

 まだ、魔法が続けられるなんて……。

 そうしみじみ思っていると、トノザキ先生がこんなことを述べてきた。

「ただアオイ、お前が特待生になるためには一つだけ条件があるんだ」

「な、なんですか?」

「お前、魔法以外の勉強が全くできないだろ。あれを何とかしないとまずいんだ。特待生は魔法だけではなく一般教養もできなければ駄目なんだよ」

「……」

「特に算数、いつも計算せずにカンで答えているだろ。あれでは駄目だ。次のテストで算数を60点取れるようにしておけ。そうすればお前は無事に特待生になれるぞ」

「60点! そ、そんな……」

「魔法はあんなにがんばれるんだ。算数もがんばれるだろ」

 トノザキ先生は簡単にそんなことを言うのだった。

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