未来に向かって
22,トノザキ先生
(トノザキ先生視点)
アオイの雷魔法を目の当たりにしたとき、なぜか私はあの日のことを思い出していた。
そう、アオイのお母さんであるユキコに告白した日のことだ。
私とユキコは子供の頃からずっと仲がよく、周囲からもお似合いの二人だと言われ続けていた。よくアキコからも、早く告白しないとユキコが待ちくたびれて別の男に走ってしまうよ、なんてからかわれたものだ。
そんなことあるはずがない。
アキコにからかわれても、私とユキコとの関係に終わりの日がくるなど、考えてさえいなかった。そう、あの日が来るまでは。
私が、ユキコに長い間告白しなかったのにはわけがある。
しっかりと責任の持てる男になってから、ユキコには告白したかったのだ。本気であることを証明するために、告白した際は一緒にその場で結婚も申し込もうと決めていた。
そして、ついにその日がやってきた。
大学を卒業し、無事に魔法学校の教師という職にありつけた私は、今こそ勇気を出してユキコに告白するときが来たと思ったのだ。責任の持てる社会人になれたのだから、もう迷うこともないだろうと。
今まで行ったことのない高級フレンチ店を予約した私は、そこで告白とプロポーズを決めて、婚約指輪をはめたユキコの手を握り二人で歩いて帰る予定だった。
けれど……。
「ユキ、こんなこと改めて言わなくても僕の気持ちはわかっていると思うけど、ずっと前から君のことが好きだったんだ。ただ、君のことを大切にしたかったから、その気持をずっと隠して……」
「ありがとうトノザキ君。あなたの気持ちは前から気づいていたよ」
「やっと僕も、一人前の社会人になれたと思っているんだ。これで責任を持ってユキに告白してもいいんじゃないかと思って……」
「……」
「ユキ」
私は震える声のまま続けた。
「僕と結婚してくれないか?」
そういいながら、スーツのポケットに忍ばせた婚約指輪を取り出そうとした時だった。
ユキコが思いもよらないことを話しだした。
「トノザキ君、いつかは話さなければと思っていたんだけど、私、トノザキ君の気持ちには応えられない」
「えっ?」
「私、トノザキ君とは結婚できない」
予想外のユキコの言葉に私は固まってしまい何も話せなくなってしまった。
「実は私、好きな人が別にいるの。その人と結婚しようと思っているのよ」
どういうことだろう。
正直、頭の中がパニック状態になってしまった。
「そ、そうなんだ。ユキには別に好きな人がいたんだね。それなのに僕は、こんな迷惑なことをしてしまっているんだね。本当にごめん。いや、今の話は気にしなくていいから、本当にごめん」
私はその場を取りつくろうように引きつった笑顔でそう述べた。
そんな私をユキコはじっと見つめていた。
そしてこう言った。
「こちらこそ、本当にごめん」と。
後日、勇気を振り絞ってアキコに聞いた。ユキコの婚約者がどんな男なのかと。アキコによると、定職もつかずにぶらぶらしている男らしい。それを聞いて思った。なぜユキコは私ではなくそんな男を選んだのだと。
ユキコは結婚式もあげずにその男と暮らしはじめ、女の子が生まれるとすぐに離婚した。その話を聞いたとき、私は拍手しながら喜んだものだ。
そして、こう決めた。
今度こそユキコと結婚しようと。
私なら間違いなくユキコを幸せにできるはずだと思っていた。
けれど、その思いは実らなかった。
私がユキコに結婚を申し込む前に、ユキコは病気にかかり、あっけなく死んでしまったからだ。
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