21,無茶よ
「今、なんと言ったの?」
優等生ミチカの親友であるミドリが聞いてきた。
「最後は、雷魔法を行います」
「雷魔法ですって!」
ミドリはあきれ顔で言った。
「最後だからってやけになったのね。雷魔法って魔法界最高難度の技よ。小学生ができる魔法じゃないでしょ。大人でもできる人などほとんどいないんだから」
他の生徒たちもアオイの宣言に驚きの声をもらしている。
「いくらなんでも無茶すぎる。雷魔法って、四つの属性をすべて掛け合わせないとできない伝説の魔法だぜ。小学生の僕たちは二つを掛け合わせるだけでも奇跡なのに、それを四つだぜ……」
「そんな技、授業でも一度も習ったことないわよ」
「当たり前だよ。先生たちだって、雷魔法を使える人なんてほとんどいないんだから」
そんな声の中、トノザキ先生があわてた様子で立ち上がった。
「アオイ、無茶なことはするな。氷魔法で十分じゃないか。もう一度氷魔法を決めて、ミチカと同じことができることをみんなに示せばいいじゃないか」
「そうよアオイ、あんな素敵な氷魔法が出来るんだから。出来もしないことを無理にするものではないわよ」
他の先生もトノザキ先生の意見に同意する。
そうなのだろうか?
難しいことに挑戦するのは、そんなにいけないことなのだろうか?
確かに雷魔法なんて大きなことを言って結局できないとなると、ミドリたちのいい笑いものになってしまう……。
ここは、トノザキ先生の言う通り、もう一度氷魔法を行うべきなのだろうか?
私は来賓席に座るアキコさんに目を向けた。
アキコさんも私に目を合わす。そして無言でうなずいた。
あのうなずきはどういう意味なんだろう。
先生たちの話をきいて、氷魔法にしなさいといううなずきなのだろうか?
いや、違う。
アキコさんがそんなことを言うわけがない。私が知っているアキコさんならきっとこう言うはず。
「思い切って雷魔法をやりなさい。やって、お母さんみたいにみんなの度肝を抜いてやりなさい」と。
そうだった。
お母さんも成功させた大技。
今の私、出来る可能性があるんだ。
十回に一度くらいしか成功しないけど、それでも出来るかもしれないじゃない。
失敗したっていい。やってみる価値はある!
「雷属性を行います」
私はもう一度宣言した。
生徒たちのざわめきが続く。
なんか集中しにくいな……、そう思った時だった。
「静かにしてくれ!」
そう声を出す生徒がいた。
「みんな静かにしてくれ! アオイちゃんが集中できないだろ!」
声をあげているのはレンだった。
レン、ありがとう。心のなかでお礼を言う。
そういえば、私を応援するって言ってくれてたもんね。レンの期待、なぜか重荷にはならずに、私に自信を与えてくれている。ほんと、レンはいつも私に力を与えてくれる不思議な男の子だわ。
レンの言葉で、体育館はシーンと静まりかえる。
誰もが息を飲み私の一挙手一投足を見守っている。
さあ、やろう!
ここまで来たら引き返せない。
もう、挑戦するしかないわ!
私は杖を振り上げ、まずは風と水をかけ合わせる。
次にそっと火を入れる。これはアキコさんから習った秘伝術。
三つまではかけ合わさった。
最後は土だ。そう、アキコさんはこう言っていた。最後の土は思い切ってかけ合わすのだと。
「エリザムール・バルーテ・サンダー!」
思い切って土をかけ合わせ、呪文を唱える。
いけ! 私の雷魔法!
お母さんの得意技! いでよ!
そう念じながら、私は魔法測定針に向かい杖を振り下ろした。
えい!
杖が振り下ろされるが、館内はシーンと静まったままだ。
失敗だろうか。
やっぱり、みんなが言ったように無茶しすぎたのかな。
そんな思いがよぎった時だった。
振り下ろした杖の先が明るく輝きだした。
えっ?
次の瞬間、魔法測定針に黄色い物体が落下した。間違いなかった。それは私の持てるすべての力を結集した、雷電を帯びた黄色い稲妻だった。
「おおっ!」
どこからか声が上がった。
バリバリバリと遅れて体育館に音が響く。
「そんな、信じられない……」
ミドリがぼそっとつぶやいた。
「すごい、すごいよアオイちゃん!」
レンの声だ。
「ありえない……、ありえないことだ。アオイが……、アオイが……」
トノザキ先生が絶句しながら声を出す。
「これは、まさにユキの魔法だ……、まるで、アオイのお母さんがアオイに乗りうつっているような雷魔法だ……」
私の魔法を目の当たりにした生徒たち、先生たちがあっけにとられた顔をしている。誰も、何を話したらいいのかわからないような表情でいる。
静まりかえる中、雷電を帯びた魔法測定針だけが、チリチリと音を鳴らしていた。
そう、まさにみんな、ここにいる生徒、先生、来賓者の全員が度肝を抜かれた瞬間だった。
ふと見ると、ミチカが下唇をかみ、くやしそうな顔をしていた。あの優等生のミチカが、あんな顔をするなんて……。
そして、ミチカの横で、ミドリがにらみつけるように私を見ていた。
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