18,受けられるの?
今から魔法学校に戻って、試験を受けさせてもらうなんて……。
そんなこと、できるわけないじゃない。
私はそう思ったが、レンはお構いなしに私をタクシーに押し込んだ。
レンのお母さんが乗ったところで、レンは行き先を告げる。
そして、運転手にこう付け加えた。
「急いでお願いします!」
強い言葉だった。
こんなこと言える小学生って、結構すごいかも。
私は、レンの大人っぽい振る舞いに驚きを隠せない。
だって、ついこの間も、「アキコさんのことを好きになってしまいそう」なんて馬鹿なことを言っていたのに。
そのレンが、タクシーを急がせるようなことまで言ってのけるなんて。
あっけに取られている私に、レンが言う。
「魔法の杖、持っている?」
「うん、一応はカバンに入れてあるけど」
「じゃあ、このまま学校に直行するね」
「直行って、いまさら行っても試験なんて受けられないよ。もうとっくに一次試験も終わっているし。それに二次試験もそろそろ結果出ているころよ」
「僕が、先生たちに直談判するよ。アオイちゃんに試験を受けさせろって」
「そんなの無理よ」
「無理かどうかは、やってみないとわからない。僕はアオイちゃんに約束したよね、応援するって。だから、最後まで応援するよ」
そんな話をしているうちに、裏道を走り抜けてくれたタクシーが、思ったより早くに魔法学校へと到着した。
お金を払っているレンのお母さんを残して、私とレンは試験会場である体育館へと走りだした。
「ねえ、アオイちゃん、雷魔法だよ。あれで、全員を驚かすんだ」
「驚かせるって、無理よ。だいたい雷魔法は十回に一度くらいしか成功しないんだから」
「その、十回に一度を、最初に来るようにすればいいんだよ」
「そんな都合のいいこと、起こるわけないよ」
息を切らし、体育館の扉を開いた。
全校生徒と、先生たちが私たちに視線を向けた。
まだ、生徒たちがいるということは、実技試験は終わってないのだろうか?
「先生! トノザキ先生!」
レンが声を出しながら先生の姿を探している。
「どうしたんだ? お母さんから、今日は休みだと聞いているぞ」
トノザキ先生が驚いた様子で私たちの前に現れた。
レンは、詳しい事情を説明するつもりはないようで、いきなりこんなことを先生にお願いした。
「アオイちゃんに、アオイちゃんに、魔法実技試験を受けさせてください!」
「アオイに試験を?」
「はい。アオイちゃんはこの日のために特訓を続けてきたんです。お願いします先生、試験を受けさせてください」
レンは大きく頭を下げてそうお願いする。
「そうだな。私もアオイに試験を受けさせたいのは山々なんだが、実は……」
そう言うとトノザキ先生は一呼吸ついた。
「実は、たった今、順位が決まったところなんだ」
順位が決まった。
じゃあ、もう試験は終わったということだ。
「一位はミチカだ。複合魔法の氷属性を見事に披露しての優勝だ」
……やっぱり一位はミチカなんだ。
もう順位が決まったんならあきらめるしかない。
私も、魔法の世界から離れるしかないんだ。
「だから、もう試験を受けることは無理なんだ。悪いがこればかりはどうしようもない」
トノザキ先生は申し訳無さそうに言った。
「そんな……」
先生の言葉を聞き、レンがうなだれた。
その時だった。
どこからか、女の人の声が聞こえてきた。
「受けさせてあげて!」
来賓席からそんな声があがった。
私はその声の主が誰だかすぐに分かった。
アキコさんだった。
アキコさん、試験を見に来てくれたんだ。
「アオイに試験を受けさせてあげて!」
アキコさんの大きな声が体育館に響き渡った。
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