19,最後の試験

「アオイに試験を受けさせてあげて!」

 アキコさんの真剣な声が響くと、すぐさま先生たちが集まり、話し合いをはじめた。

 なんなの、アキコさんの影響力。アキコさんの一言で、先生たちの空気が変わった。アキコさんって、やっぱりただ者ではない気がする。

 そんなことを考えていると、先生たちの話し合いがあっさりと終わった。意外に早く答えが出たようだ。ということは……。こんなすぐに話し合いが終わるということは……。やっぱり私は試験など受けられないんだ。そんな勝手なこと、許されるはずがないんだ。

 トノザキ先生が私に近づいてくる。

 他の先生たちも、じっと私を見つめている。

 怒られるのかな……。

 こんな勝手なお願いをして、怒られるに決まっている……。

「アオイ」

 トノザキ先生が口を開いた。

「もう順位は決まっている。それを今さら無かったことにはできない。わかるだろ」

「はい……、すみませんでした」

 帰ろう。こんなことをして、なんだか自分が情けない。

 もう、この場から逃げ出したい気分だ。

「ただ」

 トノザキ先生の言葉が続く。

「アオイがこの試験のためにものすごく努力していたことは先生も知っている。他の先生も、そんなアオイの一生懸命な姿を見てきている。そして、私を含め先生たちは皆、アオイの努力を無駄にはできないと思っている」

 えっ?

 ということは……。

「やってみろ」

 試験を受けられるというの?

「ここで、努力の成果を見せてみろ。ただ、もう上位の子たちに張り合おうなんて思わなくていいぞ。特に、一位のミチカは二連続で複合技の氷魔法を決めているんだ。アオイの適う相手ではない。ただ、そんなことは気にしなくていいんだ。もう順位なんてどうでもいい。今お前ができる精一杯を見せてくれればいいんだからな」

 私ができる精一杯……。

 そう思っているとき、一人の女子生徒が声をあげた。

「先生、一次試験も受けなかったアオイが、最後に試験を受けられるなんて、納得ができません」

 そう言ったのは二次試験に進んだミドリだった。ミドリはミチカの親友だ。

「私たちは、決められた時間に同じ条件で試験を受けに来たのです。アオイだけ特別扱いするのは不公平だと思います」

「わかっている」

 トノザキ先生はもっともだという顔をしている。

「だから順位はもう決定だ。そんなことは起きないと思うが、もし仮にアオイが上位五人より良い成績を残せたとしてもそれが順位に反映されることはない」

「私はそんなことを言っているのではありません。順位の問題ではなく、不公平だと言っているのです」

 ミドリは引かなかった。

 何があっても私の試験を阻止したいようだ。

 でも、言われてみれば、ミドリの気持ちもわかる。私だけ特別扱いになっているのは事実だし。

 やはり試験など受けないほうがいいのでは。

 そう思っているときだった。

 別の生徒が、意見を述べ始めた。

「いいじゃない、アオイに試験を受けてもらいましょう。どんな特訓をしたのかは知らないけれど、あの子の魔法、見せてもらいましょう」

 私はそう話す生徒の顔を見て驚いた。

 そう言ったのはミチカだったからだ。

 あの、私にいつも冷たい態度を取っていたミチカがこんなことを言うなんて……。

「ミチカがそう言うのなら……」

 ミドリの勢いがなくなった。

「まあ、いいわ。だいたいアオイが今さら試験を受けても何も変わらないんだから。どう転んでも、アオイの実力ではミチカの氷魔法を超えることなんて不可能なんだから。最後にみんなの前で恥をかけばいいのよ。そして本人の言う通り、魔法学校をやめてしまえばいいのよ」

 やめる……。

 そうだ。

 一位になれなかったら特待生に推薦されることもない。

 順位は決定しているんだから、私が一位になることはもうない。

 ということは、この試験が終わったら私は魔法学校をやめて普通の女の子になるんだ。これがみんなの前で魔法を披露できる最後の機会になるんだ。

 どうせ最後なら、失敗してもいい。

 失敗なんてこわくない。

 やるだけのことをやってやろう。

 私はそう決意したのだった。

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