16,試験は……

 次の日の朝、私は早朝から出かける準備をしていた。もちろん病院に行くためだ。

 約束の時間になる十五分前、私は外に飛び出した。一直線にレンの家へと向かう。

 ちょっと、早かったかな。

 家の門にたどり着いたとき、腕時計を見ながらそう思った。

 昨日は、晩御飯までごちそうになって、レンのお母さんにはお世話になりっぱなしだった。

 タクシー代に、晩ごはん代、それに病院代……。

 うちにはそんなお金を払うことなんてできないはず。

 いったいどうしたらいいのだろう。

 そんなことを心配していると、レンの家の玄関ドアが開いた。

「やっぱりアオイちゃん、もう来てたんだね」

 そう言って声をかけてきたのはレンだった。

 レンの後ろにはお母さんもいる。

「さあ、行きましょう。もうすぐタクシーが来るわ」

 私はレンとお母さんを見て、不思議に思った。

 そして、気になったことをそのまま言った。

「レン君は今日、学校だよね」

「あ、うん。今日は休んでアオイちゃんについていく」

「えっ?」

「ほら、今日は授業のない日だろ。だから学校休んでいいってお母さんも言ってくれたんだ」

「授業がないって、今日は魔法実技試験の日だよ。レン君も出る予定でしょ」

「うん、もういいんだ。お母さんに許可もらったし」

「何が許可もらったよ」

 レンのお母さんがあきれた顔をしている。

「泣きわめいてお願いし続けるんだから。まあ、大好きなアオイちゃんのことを思ってのことだから、今回は特別にゆるしてあげたの」

 大好きなアオイちゃん?

 ちょっと違う気がするけど、でもレンがいてくれたら、少しほっとする。

 おばさんと二人っきりでいるより、気心の知れたレンがいてくれるとどこか助かる。

 そんなことを思っていると、家の前にタクシーが停車した。

 私とレン、レンのお母さんが後ろの席に並んで座ると、タクシーは病院に向かって出発した。


 病院につくと、すぐさま昨日おばあちゃんがいた治療室へと向かった。まだ、正式な面会時間ではなかったが、昨日の看護師さんが、特別に朝八時以降なら来てもいいと言ってくれたので、そのとおりに八時すぎに来たのだ。

「あの、タキオカスズコの孫ですが、おばあちゃんはどうなりました?」

 ナースステーションで忙しそうにしている看護師さんをつかまえ、聞いてみる。

「ああ、タキオカさんね。今、まだ、集中治療室にいます」

 ちょっと冷たい言葉が返ってきた。

 ナースステーションの隣にあるガラス張りの部屋があり、そのベッドにおばあちゃんが寝かされていた。

 あいかわらず、おばあちゃんは目を閉じたままでいる。

「おばあちゃんは、どうなったのですか?」

 私は看護師さんに聞いた。

「まだ、意識が戻らないようね」

 そんな言葉が返ってきた。

 朝、もしおばあちゃんが元気になっていたら、すぐに家に帰って、魔法実技試験を受けられるかもと思っていたが、そんな小さな希望はこの瞬間に消えてしまった。

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