15,後遺症

 お医者さんの話によると、手術は成功したらしい。けれど、おばあちゃんが元気な姿に戻れるかどうかはまだわからないと言われた。

 どういうことだろう?

 手術が成功したなら、おばあちゃんは無事なはずだ。成功したのにおばあちゃんに何かあるなんて、ありえるのだろうか?

 よくわからない……。でも、説明を聞くと、今回の脳の手術の場合、何らかの後遺症が残る可能性があるということらしい。

 後遺症ってなに?

 そう考えていると、レンのお母さんが声をかけてきた。

「さあ、アオイちゃん、今日はもう帰りましょう」

 そうだった。レンのお母さんは、ずっと私に付き添っている。ほんと悪いことをしてしまった。

 ここからは……。

「ありがとうございます。ここからはもう私一人で大丈夫です。レンが待ってますので、どうぞおばさんは家に戻ってください」

「一人でって? 一人でここに残る気なの?」

「はい。おばあちゃんと会って話をするまで、ここで待ちます」

「それは無理よ。アオイちゃん、待つなんて絶対に無理よ」

「いえ、おばあちゃんが元気になるまで……、ここで……」

 自分で言っていても、強がっていることがよく分かる。

 小学生の私が、一人で残れるわけがない。無理を言っていることは百も承知だった。

 でも、残りたかった。おばあちゃんが元気になる姿を誰よりも早く見届けたかった。

 だけど、結局私は看護師さんの説得もあり、今日はおばあちゃんだけを治療室に残して帰ることになった。帰る前に、看護師さんに連れられておばあちゃんに一目会わせてもらった。

 手を念入りに消毒して、足でボタンを押し、自動ドアが開く。そのまま進むと、ベッドの上におばあちゃんが横になっていた。

「おばあちゃん」

 声をかけてみる。

 おばあちゃんは目をつぶり、まったく動かない。

「おばあちゃん」

 もう一度声をかけるが、反応はない。

 おばあちゃんの頭にはネットがかぶされ、髪の毛はなくなっていた。

「さあ、今日はもう帰りましょう」

 あまり長くいては駄目なのだろう。

 看護師さんの声で、私は治療室から出ることになった。

「おばあちゃん、苦しんでいるの?」

 部屋を出る際に、私は気になることを看護師さんに聞いた。

「大丈夫」

 看護師さんはすぐに答えた。

「おばあちゃんは麻酔がきいているの。苦しくなんかないから、安心して」

 私はその言葉で、ほんの少しだが救われた気持ちになった。

「明日、朝一番でここに戻ってきましょう」

 レンのお母さんが優しい顔をしてそう言った。

 でも。

 小学生の私一人では、病院に来ることもできない。

「私、どうやって……」

 そんな私の気持ちを察したのだろう。レンのお母さんが言葉を足した。

「私が責任を持ってアオイちゃんを病院に連れて行く。だから、安心しなさい」

 いつまでも他人であるレンのお母さんに頼っては駄目な気もしたが、自分だけではどうすることもできない。明日だけは甘えさせてもらうしかない。

「おばさん、ありがとうございます」

 申し訳ない気持になりながら、私はお礼を述べた。

「そんな、かしこまらなくていいのよ。子供は元気にありがとうって言っていればそれでいいの」

 レンのお母さんはうなずきながらそう答えてくれた。

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