14,一人ぼっち
救急車からおばあちゃんを乗せた寝台が降ろされると、病院のスタッフが急いで建物の中へと運び込む。レンのお母さんと私は小走りで後ろを付いていく。
おばあちゃんはだいじょうぶなのだろうか?
かなり病院職員はあせっているように見えるけど。
おばあちゃんが寝台ごと診察室に入り、看護師さんが私たちに早口で話しかけてきた。
「お母さんと娘さんですね」
「いえ、私は同級生の母親です。身内ではありません」
「お母さんは?」
お母さん……。
こんな時に、お母さんがいてくれたら、どんなに心強いだろうか。
でも、ありがたい。こうしてレンのお母さんが助けてくれているんだから。
「この子のお母さんは亡くなってしまってます」
「では、お父さんは?」
「お父さんもいません」
看護師さんの質問にはほとんどレンのお母さんが答えてくれている。
けれど、おばあちゃんの倒れていた時のことだけは、私が答えなければならなかった。答えると言っても、倒れて意識がなかったことくらいしか言えなかったんだけど。
それを聞いていたお医者さんが看護師さんに指示をだした。
「すぐに応急処置室に連れて行ってください。できるだけ早い処置が必要です」
そこから先のことはよく覚えていない。
気がつけば、私とレンのお母さんは手術室の待合に座っていた。
看護師さんの説明によると、おばあちゃんは脳の手術をしなければならないのだそうだ。たくさんの書類が机の上に広げられ、それらすべてをレンのお母さんが記入してくれた。
そんな様子をじっと見ていたとき、ふと涙があふれてきた。私のほほに涙が伝いはじめる。
「どうしたの?」
書類の手を止め、レンのお母さんが声をかけてきた。
「私……、私、どうしてもっと早く救急車を呼べなかったのだろう。おばあちゃんが倒れているのを見つけたとき、どうして一人ですぐに救急車を……」
おばあちゃんは一刻をあらそう状態だったんだ。
そんな中、私はどうしていいのかわからずに、レンの家に助けを求めた。結局それで、おばあちゃんを病院へ連れていく時間が遅くなってしまったんだ。
おばあちゃんに、何かあったら私の責任だ。
「アオイちゃん」
泣いている私の頭をなで、レンのお母さんが話した。
「そんな、一人で救急車を呼べる子供なんてどこを探したっていないわよ。私のところに助けを求めてきたアオイちゃんの判断は正しかったのよ」
「でも……、おばあちゃんが……」
「おばあちゃんは、きっとだいじょうぶよ。アオイちゃんを一人っきりになんかしないわよ。今は、おばあちゃんの無事を祈って待ちましょう」
おばあちゃんは私を一人っきりになんかしない……。レンのお母さんはそう言ってくれたけど……。
でももし、おばあちゃんにもしものことがあったら、私は本当に一人ぼっちになってしまうんだ。身内はどこにもいない。他人ばかりの世界で生きていかなければならないんだ。そんなこと、できるのだろうか?
こんなことを考えていると、看護師さんが待合に現れてこう言った。
「手術は終わりました」
「大丈夫なの? おばあちゃんは大丈夫なの?」
私はすぐさま看護師さんにきいた。
「詳しいことは医師が説明します」
看護師さんは、私から目をそらした。その様子から、嫌な予感がした。
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