13,救急車

 どうしたらいいの?

 おばあちゃんが部屋で倒れている。意識を失っている。

 私はもうパニックになってしまっていた。

 お医者さん……。

 すぐにその言葉が浮かんできたが、具体的にどうしたらいいのかが分からない。

 誰か大人に相談しないと……。

 たよれる誰かに相談したい……。

 けれど。

 その時になって気がついた。

 私、おばあちゃん以外にたよれる身内なんて誰もいないんだ。

 相談できる大人なんて、どこにもいない。

 どうしたら……。

 気がついたら私は外へと走り出していた。

 家の近所で相談できる大人がいるところ……。

 私は、一戸建ての家のベルを押す。

「はい」

 インターホンから声が聞こえてきた。

「おばさん! おばあちゃんが! おばあちゃんが!」

 私はあせりながら声を絞り出す。

「どうしたの?」

「おばあちゃんが、大変なの」

「すぐに出るから、待っていて」

 その返答の後、まもなく家のドアが開かれ、中から一人の女性が現れた。レンのお母さんだった。

「おばさん、たすけて。おばあちゃんが部屋で倒れているの」

 姿を見るなりすぐにそう伝える。

 いつの間にか、お母さんの後ろにレンの姿もあった。

「お願い、来てほしいの」

 私はそう言うと家に向かって走りだそうとしていた。

「わかったわ」レンのお母さんは家を飛び出しながらレンに向かって声をかけた。「あんたは家で待っていなさい。何かあれば連絡するから」

 そのまま私とレンのお母さんは集合住宅に向かい走り出す。

 早く、早くしないと。

 気持ちばかりがあせってくる。

 階段を駆け上がり、カギのかかっていないドアを開けた。

 一瞬、おばあちゃんが元気に立ち上がっている姿を想像したが、先程の現実に変わりはなかった。おばあちゃんは仏壇のある部屋で倒れている。

「きゅ、救急車を呼ぶわ!」

 レンのお母さんが声を上げ、急いで電話の受話器を持ち救急の番号を押しはじめた。


 救急車のサイレンは意外に早く聞こえてきた。

 おばあちゃんは男性二人に抱えられ、そのまま階段を降りると、一階に置かれていた寝台に乗せられた。

 ただ、おばあちゃんは全く動かない。

「おばあちゃんは、だいじょうぶなの?」

 救急隊の男性に私は聞く。

「うん、すぐにお医者さんに診てもらうから、安心して」

 男性はそう言うと、すばやく寝台を救急車の後ろに差し入れた。

「さあ、アオイちゃんも行くわよ」

 レンのお母さんが救急車に乗り込みながら私に声をかけた。すぐに私も救急車に乗る。

 ただ、私が乗り込むとすぐに救急車が走り出すものかと思ったが、なかなかそうはならなかった。

 救急隊がどこかに連絡を取った後、しばらくするとようやくサイレンの音が鳴り出し、救急車が発車した。

 救急車の車内、まったくいつもと違う景色が目に飛び込んでくる。見たことのない機械類、すぐにおばあちゃんに付けられたマスクのようなもの。でも、窓の隙間から見える外の景色はいつもと何も変わらない。歩く人がいて、その横を普通に車が走っている。

 そんな中、救急車はある大きな建物の前で止まった。ハッチが開き改めて見ると何階あるのかわからない高い建物。病院に違いなかった。

 その病院を見て私は思う。

 こんな立派な建物に来て、病院代を払えるのかなと。

 そして、おばあちゃんが倒れているこんな時にもお金の心配をしている自分が情けなかった。

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