12,試験前日

(アオイ視点)


 ついに、魔法実技試験が明日へと迫っていた。

 あれからもアキコさんの特訓は続き、私の魔法は見違えるように上達していた。

「アオイちゃんなら大丈夫。こんな素晴らしい才能にあふれている子を、神様は見捨てたりしないわ」

 アキコさんはそんな言葉を特訓の最後にかけてくれた。

 超難関と言われている雷魔法、まだ不完全ではあったが、これを私はある程度習得できていた。今現在、成功の確率は十回に一度ほど。

 もしかして……。

 もしかして、私、魔法実技試験で良い成績を残せるかも……。

 当日、雷魔法が成功すれば、一位の成績だって夢じゃない。

 もし、一位になれば、学校をやめずにすむ。大好きな魔法を続けられるかもしれない。

 そう思ったが、弱気な私がすぐに顔を出す。

 十回に一度の成功率しかない雷魔法が、試験の本番で上手く披露できるわけなんてない。だいたい試験中は緊張してしまい、普段の力を完全には出しきれないに決まっている。そんなに上手く行くはずがない。

 期待するだけ落ち込みも大きくなるだけよ。


 学校からの帰り道、私はレンと並んで歩いていた。放課後の特訓を終えた後なので、下校する生徒は私たちをのぞいて誰もいない。

 私は明日の試験のことで頭が一杯で、レンと話す余裕などなかった。多分レンもそれを感じてくれていたのだろう。彼も私に話しかけてくることはなかった。

「いよいよだね」

 家がもうすぐという時、ようやくレンが口を開く。

「うん」

 私は短く答えた。

「アオイちゃんなら一位になれるよ」

 レンの言葉に私は思う。そんなに簡単に一位になんかなれるわけないじゃない、と。

 そして、そのまま言葉に出す。

「奇跡が起こらない限り、一位になんかなれないわ」

 するとレンは言った。

「奇跡は起こるよ。アオイちゃんなら、きっと奇跡を起こすことができるから」

「そんな、無責任なこと言わないで」

「ごめん……。でも、僕、アオイちゃんの雷魔法が成功することを祈っているから。アオイちゃんとは、これからもずっと魔法学校で一緒に勉強したいから」

「……、ありがとう」

 最後はそう言って、レンと別れた。そして、集合住宅の階段を上っていく。二階の端から二つ目のドア、そこのチャイムを押す。すると、いつもはおばあちゃんが明るい笑顔を見せて出迎えてくれるはずだった。

 けれど……。

 私はもう一度チャイムを押す。

 誰も出てこない。

 おばあちゃん、いないのかな?

 こんな時のため鍵はランドセルに入れてある。私はランドセルの内ポケットに入れてある家の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。

「おばあちゃん、ただいま!」

 ドアを開けて、声を出す。

 が、返事はない。

 クツを脱ぎ、真っ直ぐ台所に進む。

 えっと思った。

 台所の隣の部屋に、横になっている足が見えたからだ。

 おばあちゃんの足に違いなかった。

 おばあちゃん、こんなところで寝ているのかな……。

 台所の隣の部屋、小さな仏壇が置いてある部屋に、おばあちゃんが横になっている。

「おばあちゃん、ただいま」

 私は声をかけてみる。返事はない。

「おばあちゃん……」

 このときになってやっと、異変に気づいた。

 おばあちゃんは寝ているのではない。

「おばあちゃん!」

 私はおばあちゃんのそばにかけよった。

 間違いない。

 おばあちゃんは倒れていた。

 倒れて、意識を失っていた。

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