7,アキコさん
実技魔法試験を受けることが決まった二日後のことだった。
授業が終わり家に向かって歩いているといきなり声をかけられた。
「アオイちゃん、だよね?」
見ると、大人の女性が立っていた。
私の名前を知っているなんて、誰かのお母さんなのかな?
そう思ったけど、見たことのない顔だ。
「アオイちゃん?」
もう一度、女性は言う。
「……はい」
少し警戒しながら返事をした。
学校からはこう言われている。知らない人に話しかけられても、返事をしては駄目だと。でも、目の前の女性を見ると、なんとなく人さらいには見えない。それに私の名前を知っているのだから……。
「私はアキコ。あなたのお母さんのお友達よ」
「えっ」
お母さんの……。
亡くなったお母さんのお友達……。
「さっそくだけど、ちょっとどこかでお茶しない?」
私が黙っているとアキコさんはこう言った。
「ああごめんごめん。知らない人について行っちゃ駄目なんだよね。だったら学校に戻りましょう。アオイちゃんに教えたいことがあるの」
「教えたいこと?」
「そう。もうすぐ魔法の試験があるんでしょ? 私、アオイちゃんに魔法を教えたいのよ」
「私に魔法を教えたい?」
アキコさんから出てくる言葉に、私の頭の中が疑問符でいっぱいになってしまった。
お母さんの知り合い?
私に魔法を教えたい?
「どうして私に魔法を教えてくれるのですか?」
思っている疑問をぶつけてみる。
「ある人にお願いされてね」
「ある人?」
「そう。あなたのおばあちゃんよ。アオイが試験で一位を取れるようにしてくれないかって」
ますます分からない。
おばあちゃんが、この人にお願いした? お母さんのお友達だったアキコさんに?
迷走している私の気持ちなどお構いなしにアキコさんは話を続けた。
「ちなみにトノザキ先生は魔法学校時代、私とユキの同級生だったのよ」
ユキとはお母さんのことだ。お母さんの名前はユキコだし。
「だから、学校を使わせてもらうことはトノザキ君も了解済みよ。さあ、学校に戻りましょう」
学校へなら戻ってもいいのかな。知らない人といっても、本当にお母さんのお友達だった人みたいだし。
そう思いながら、私はアキコさんと一緒に魔法学校へと向かった。すれ違う同じクラスの生徒たちが、不思議そうな目で私たちを見る。そりゃそうだ。もう授業は終わったのに、逆方向、つまり学校に向かって私が女の人と歩いているからだ。
そんな中、一人の生徒が声をかけてきた。
「アオイちゃん!」
聞き慣れた声。
前から歩いてくる男の子。私が一番意識している男の子。
「あ、レン」
「アオイちゃん、どうしたの?」
「ちょっと学校に用が……」
「学校に?」
レンが不思議そうな目で私とアキコさんを眺めている。
そんな様子を見て、アキコさんが口を開いた。
「レン君というのね。アオイちゃんのお友達?」
「……え、うん」
「アオイちゃんのことが心配なんだね?」
「えっ?」
アキコさんの言葉にレンがしどろもどろしている。
「大丈夫よ。私は怪しいものではないから。トノザキ先生と同級生だったアキコという者よ」
「トノザキ先生の……」
「今から、アオイちゃんに魔法を教えようと思って。レン君も一緒に来る?」
「う、うん」
レンはすぐさまそう返事した。
その返事を聞き、私は思った。
確かにアキコさんが言う通り、レンは私のことを心配しているように見える。
変な人に連れて行かれないように、私を守ろうとしてくれているのかな?
だとしたら、ちょっとうれしい。
レンは私の横に並ぶと、一緒に学校へと歩きだしたのだった。
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