8,四聖
アキコさんがトノザキ先生と知り合いだという言葉は本当だった。
ただ、不思議なことがあった。
アキコさんが、職員室に入りトノザキ先生と話している時、周りの先生たちが、息をのむようにしてアキコさんを見つめていたからだ。先生たちは、アキコさんに近寄りたくても近寄れない、そんな独特な空気が流れていた。
アキコさんって、何者なのだろう?
もしかして、とてつもない有名人だったりして。
ふと、そんなことを想像したが、すぐにその考えを否定した。
もしそんなすごい人だったら、私なんかに会いに来るわけないじゃない。
「じゃあ、トノザキ君、魔法研究室を借りるわよ」
カギを受け取ったアキコさんはそう言うと、さっさと歩き始めた。
ここの卒業生だからか、研究室の場所はわかっているみたいだ。
廊下を歩くアキコさんの後ろに私とレンが続く。
すると、近くを歩く生徒が足を止めてこちらを注目しはじめた。
その生徒は、恐る恐る私たちに近づいてくる。
そしてこう言ってきた。
「もしかして、アキ様ですか?」
アキ、様?
私の頭の中にクエッションマークが浮かぶ。
「アキ様ですよね、あの四聖のお一人であられるアキ様じゃないのですか?」
四聖?
四聖って、この国を守る四人の聖女ってことよね。
私はぽかんとしながらアキコさんを見ていた。
アキコさんはすぐにその生徒に返事をした。
「私? よく四聖に間違われるんだけど人違いよ。ごめんなさいね、似ているんだけど別人なの」
その言葉を聞いても、その生徒は引かなかった。
「いえ、間違いありません。私、四聖に憧れて各地で開かれるイベントにもよく行くんです。その時にお見かけしたアキ様を見間違えるはずがありません」
「うーん、ごめんなさいね。でも、やっぱり私はそっくりさんなの。世の中には自分に瓜二つの魔法使いが三人いるっていうけど、私と四聖ともそんな関係なんだと思うわ」
そう言うとアキコさんは逃げるように足を早めて歩きはじめた。私たちも何がなんだか分からずにその後ろを付いていく。
一人残されたその生徒は、まだ納得いかないような顔で、じっとその場で釘付けになってこちらを見ている。
「ほんと、よく間違えられて困るのよね」
アキコさんはこちらが何も聞いていないのに、そんな言葉を発してきた。
そして、研究室のドアにカギを差し込むと、「さあ、入りましょう」と私たちを促した。
でも、と私は思う。
四聖の名前はアキ様。
ここにいるのはアキコさん。
姿も、そして名前までも似ているというの?
本当は……、本物の四聖なのでは?
一瞬、そんなことを考えたが、すぐに違うと思い直した。
だって、四聖がわざわざ私なんかに魔法を教えに来るはずないし。
アキコさん本人が言う通り、ただのそっくりさんに違いない。
私がそう結論づけた時、アキコさんの声が聞こえてきた。
「さあ、練習はじめるわよ。アオイちゃんの魔法、ユキゆずりの魔法を見せてもらうからね」
そうだった。変なことは考えずに今は魔法のことだけを考えよう。
大好きな魔法を続けるためには、魔法実技試験で一位をとらなければいけないんだし。
私はアキコさんに向かい、「よろしくお願いします」とあいさつをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます