6,おばあちゃんの気持ち
(おばあちゃん視点)
私はなんて情けない祖母なんだろう。孫のアオイにまでお金の心配をさせてしまうなんて。
アオイの言う通り、確かにうちは貧乏だった。魔法学校の授業料もままならない状況になってきている。
けれど、なんとしてでもアオイだけは魔法学校を卒業させてやりたいと決めていたのに。
この子が母親の血を受け継いで、魔法が使えるとわかった時、どうにかして一流の魔法使いに育てようと決心したのだけれども……。
お金が無くてもアオイなら、きっと母親と同じように一流の魔法使いになるはずだ。そう思ってアオイを育てていたのだけれども……。
現実は、厳しかった。
アオイにはお金の心配などしなくていいと言ってはいたが、正直あの子の言う通り、うちはもう限界かもしれない。いくら魔法の才能を引き継いでいる子だったとはいえ、こんなことになるのなら授業料の高い魔法学校へなど、はじめから通わすべきではなかったのかもしれない。これでは、ただ単にアオイがみじめな思いをするだけだ。
朝、アオイが魔法学校をやめると言ってきた時、どことなくホッとしてしまった自分がいた。
情けないけど、もう限界か……。
なんとも言えない脱力感が私の心を支配する。私の力が不足しているせいで、アオイの才能を伸ばせなくなってしまうのだから……。
※ ※ ※
(アオイ視点)
集合住宅の階段をのぼっている時、私はずっとあの時のことを考えていた。
トノザキ先生が勧めてくれた魔法実技試験……。
先生やミチカには受けると言ってしまったけれど、そんなことをして一体どうなるというのだ。
一位になれば特待生に推薦してくれると先生は言ったけれど、私なんかが一位になれるわけないじゃない。
年に一度行われる魔法実技試験は、先生に推薦された優秀な生徒たちが集まってくる。そんな中に平凡な成績の私が参加しても、よくて平均点近く、悪ければ最下位になる可能性だってある。
受けたって、恥をかくだけじゃない。
こんな試験、断ったほうがいいに決まっている。
そんな思いを抱きながら、私は玄関のドアを開けたのだった。
「ただいま」
「おかえり」
おばあちゃんの明るい声が返ってくる。
おばあちゃんはいつも私に素敵な笑顔を向けてくれる。
お金で苦労していても、嫌な顔など見せることが一切ない。
根が明るいとは、おばあちゃんみたいな人のことを言うのだろう。ほんと、すごい人だ。こういう部分、私も引き継ぎたいなといつも思っている。
「おばあちゃん、魔法実技試験を受けるように言われた」
いろんな説明が抜けている気がしたが、とりあえずそんな言葉が私の口から出た。
「魔法実技試験?」
「うん。トノザキ先生に受けるように言われたの」
そう言ってから、大切なことを付け足す。
「その試験で一位になれば、特待生になれるかもしれないの」
「特待生?」
「特待生になったら、授業料が免除されるんだって」
「……」
「私、受けようかどうか迷っているんだ。受けても一位になんかなれないに決まっているから」
おばあちゃんは私の言葉を聞くと優しい口調でこう言った。
「一位になれなくても、それに向かって努力することはとても大切なことよ。トノザキ先生が受けるように言ってくれたのなら、やってみれば?」
「……うん」
うなずいた私は、言わなければいけないことも伝えた。
「受けて、もし特待生になれなかったら、もう魔法学校はやめて普通の女の子になる」
そんな私の言葉を、おばあちゃんは黙って聞いていた。
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