5,ミチカ

 職員室を出た私は、なんだかフワフワした状態で歩いていた。

 私が特待生?

 トノザキ先生は何を言っているのだろうか? 下から数えたほうが早い私の成績で、特待生なんかになれるわけないのに。

 でも、先生の言葉、どことなくうれしかったな。

 先生、真剣な目をしてたもん。

 それに、もし特待生になれたら、大好きな魔法の勉強をまだ続けられるのよね。

 そんなことを考えていると、私の進む先をさえぎるように、目の前に一人の女の子が現れた。

 長い髪がうらやましいくらいにやわらかくウェーブしている。やや切れ長の目が、知的な雰囲気を醸し出している。

 私の目の前に立つ女性、それは学年トップの才女、ミチカだった。

 ミチカは相変わらず私に対しては冷たい顔を向けている。

「……」

 なんだろう。

 今はミチカと話なんかしたくないんだけどな。

 ミチカのことを好きだと言ったレンの姿が浮かんでくるから。

 そんな私の気持ちなどお構いなしにミチカは私に近寄り話しかけてきた。

「アオイ、魔法学校やめるって本気?」

「……うん」

「どうして?」

「……」

 どうしてって、ミチカも薄々気づいているんでしょ。

 レンも、トノザキ先生もわかっているふうだったし。

 ……お金の問題だって。

「アオイがやめたいんならやめればいいわ」

 ミチカはじっと私を見ながら短くそう言った。

 今まで私は、レンのこともありミチカとはかなり距離を置いていた。けれど、その関係も終わり。もう二人がどうなろうとも、私には関係のないことだから。

 そう考えると、心が軽くなった。

 今まで張り合って、いろんなことを上手く話せなかったけど、思っていること素直に言ってみよう。

 私はそんな気持ちで口を開いた。

「魔法のことは今でも大好きだけど、いろいろ事情があってやめることにしたの。この気持、なんでも簡単にできてしまうミチカにはわからないと思う」

「なんでも簡単に?」

「ええ。魔法コンクールで簡単に賞まで取ってしまうあなたと、努力してもそこそこの私。もともと住んでいる世界が違うのよ」

「だから、魔法をあきらめるというの? アオイの言う大好きな魔法を簡単にあきらめてしまうの?」

 なんだろう?

 不思議な気持ちがした。

 どことなくミチカが私を引き止めようとしている気がしたからだ。私のことなんて興味ないと思っていたのに……。

「私ならあきらめない。どんな事情があっても、なんとかして魔法を続けようと努力するわ」とミチカ。

 そうだよね。

 私だって本当は……。

「ミチカからそんな言葉が聞けるとは思わなかった。なんでもできるミチカに努力なんて言葉、必要ないと思っていたから」

 まだ、ミチカのことを意識しているのかな。私から出てくる言葉が、少し嫌味っぽくなっている気がする。

「……」

 ミチカはしばらく黙ってからこう言った。

「まあ、いいわ。やめたい人はやめればいいんだから」

 そう言って、私に背を向ける。

「ねえ、ミチカ」

 私は、ミチカの背中に声をかけた。

「私、今度の魔法実技試験だけは受けようと思うの。最後の思い出づくりなんだけど」

 歩きだそうとしていたミチカの足が止まった。そして顔だけをこちらへ向けてきた。

「私も受ける予定よ。もちろん一位をとるつもり。アオイも一位を目指しているんでしょ」

「一位だなんて、私には無理よ」

 正直な気持ちを私は言う。

 すると、ミチカがびっくりするような言葉を述べてきた。

「アオイは自分の才能に気がついていないんだね。だから、その程度なんだ」

 それだけ言うと、ミチカは私から離れていってしまった。

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