3,宣言
朝のホームルームが終わり、一時間目のトノザキ先生の授業が始まったが、先生の言葉が全く頭に入ってこない。
もう私は完全に学校をやめる決心をしてしまっていたので、大好きな魔法の授業だったが、それにも興味がなくなってしまっていたのだ。
魔法学校をやめて普通の小学校に行くと、魔法は使えなくなる。外で魔法を使うことは禁止されていることだし、それに一般人に魔法が使えるなんて知られると、下手をすればいじめの対象になってしまう。これからはもう、自分が魔法つかいだということは封印しなければならないのだ。
大好きだった魔法だけど、レンと一緒にもうお別れだ。
そんなことを考えていると、不意にどこからか私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「は、はい」
反射的に返事をする。
「どうしたんだアオイ、さっきから心ここにあらずといった顔をしているぞ」
トノザキ先生の声だった。
先生が私の様子を見かねて、声をかけてきたのだ。
「すみません」
私はとりあえずそう言った。教室にいるみんなの視線が私に集中しているのを知り、ドキドキする。
「調子でも悪いのか?」
トノザキ先生はやさしい口調で聞いてくる。
私の大好きな担任の先生。でも、先生とももうお別れ。私が魔法学校をやめたら、二度と会うことなんてないんだろうな。
「調子は悪くありません」
そう答えたが、次に突拍子もないことを私ははじめてしまった。自分でもどうしてそんな行動をしたのかよくわからない。気がつけば、椅子から一人で立ち上がっていた。
先生、生徒たちが驚いた顔で私を見ている。
そんな中、私は後先のことを何も考えずに口を開いた。
「トノザキ先生」
「うん? どうしたんだ?」
「私……」
もうレンにも言ってしまったし、みんなに知られるのは時間の問題だ。迷っている自分の心に早く決着をつけたいと思ったのだろうか。
気がつけば私は、みんなの前でこう宣言していた。
「私、もう魔法学校をやめます。先生、みなさん、どうもお世話になりました」
急な私の言葉で、教室の中が静まり返った。
トノザキ先生もあっけに取られた顔をして私を見つめている。
しばらくして先生が口を開いた。
「アオイ、あとで職員室に来なさい」
先生はそれだけ言うと、私に席につくように促し、授業を再開した。
「どういうこと?」
隣に座るマリが小声で私に聞いてきた。
「うん、もう学校やめることにした」
みんなの前で宣言した私は、なんだかすっきりした気分でマリに返事をした。
「どうして?」
貧乏だから。
もちろんそんなことは言えない。
私のプライドが許さなかった。自分だけでなく、おばあちゃんをはずかしめているような気がするからだ。
「もう、魔法に興味がなくなったの」
「ええ? 魔法の授業だけはいつも真面目にきいているアオイが?」
「うん。もう魔法とは関わりを持たずに、普通の女の子として生きていくんだ」
普通の女の子……。
なんか響きがよくて、使ってしまった。
そう、もう私は、大好きな魔法とお別れして、普通の女の子になるんだ。
そう思うと、正直さびしい気持になってしまった。
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