2,悩み事

「アオイちゃん、悩み事あるの?」

 並んで歩くレンが、急にそんなことを聞いてきた。

「どうして?」

「なんか、最近元気ないなと思って」

「うん……」

 私は思い切って言ってみることにした。レンは信頼できたし、私の気持ちを知っておいてほしかったから。

「私、魔法学校をやめて、普通の小学校に行こうと思っているの」

「えっ?」

 レンは歩いていた足を止めて私をじっと見た。

 彼は私を止めてくれるのだろうか、ふとそんな事を考えた。私が魔法学校をやめることを寂しいと思ってくれるのだろうか。

「だめだよアオイちゃん。学校をやめるなんて絶対にだめ」

 レンは断固とした調子で言ってくれた。

 ありがとうレン、でも……、その言葉だけで充分うれしいよ。

「私もとても残念なんだけど、もう決めたから」

「どうして? どうしてやめてしまうの?」

「うん……」

 貧乏だから……。そんなこと、言えなかった。でも、レンは気づいているだろうな。おそらくお金の問題だろうと。だって、それ以外に私が学校をやめる理由ないんだから。

 おばあちゃんは気を使って、お昼のお弁当には一番のごちそうを入れてくれているけど、それでも他の子たちと比べるとどうしても見劣りのするものだった。服だって、同じものを着回している。それも、着古したボロボロの服。他の生徒といえば、どれだけ持っているのというくらい、毎日違う服で着飾ってくる子もいる。

「僕は絶対に嫌だからね。アオイちゃんが魔法学校をやめるなんて」

 レンは真剣に止めてくれるんだね。

 こうやってあらためてレンの偽りない表情を見ることができると、やっぱりうれしい。

 さすが、幼稚園の頃から一緒に遊んできただけの仲だ。

 でも、それだけ。

 私たちは一緒に遊ぶだけの仲。それと、家が近いのでこうして一緒に学校へ行くだけの仲。それ以上でもそれ以下でもない。

 レンの好きな人を私は知っている。だって、レン本人から聞いたから。

 冗談ぽく、クラスの誰が好きかと聞いたことがある。

 何気なく聞いてみたように装っていたが、実際私は心臓が飛び出るくらいドキドキして聞いたんだ。

「ミチカちゃん」

 レンは短くそう答えると付け加えた。

「はずかしいから、誰にも内緒にしておいてね」

 正直、その言葉を聞いた時、目の前が真っ暗になった。

 ミチカは私よりきれいだし、勉強もよくできる。しかも魔法コンクールで賞を取るくらい魔法にも長けている。

 いわば完璧な女の子だ。

 私なんかとは比べものにならないくらいの素敵な女の子。レンが好きになるのも当然だ。

 そして私は知っている。

 ミチカもレンのことが好きだということを。

 彼女は、レンと一緒にいる私をライバル視している。他の子とは仲良くしているが、私にだけは明らかに冷たい態度をとってくる。

 レンと仲良くしている私を嫌っているわけだ。そして私も……。

 心のなかに秘めていた私の思い。

 けれど、どうあがいてもレンは私なんかよりミチカが好きなのだ。二人はすでに両思いってわけだ。

 複雑な感情で絡み合っていた私の心だが、もうこの苦しみからも逃れる時がきたんだ。

 私が学校をやめたら、もうミチカと変な意地を張り合う必要もなくなるし、時が経てば自然とレンのことも忘れてしまうだろう。

「レン、止めてくれるのはうれしいけど、もう私の気持ちは変わらない。私もう魔法学校をやめるから」

 横に歩くレンに、私はきっぱりとそう告げたのだった。

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