第12話 シノ・アルルシャール

 こうして「カチン王国連続痴漢事件」の解決に取りかかった六花。その内容の悪質さから気合い十分な様子で挑もうとしている。


 ・・・・・・・だが。


「どうしよう・・・・・・・・」


 本部のカフェテリアのテーブルに突っ伏して、六花は早速頭を抱えていた。


「・・・・・・どうしたの?」


「シノちゃん」


 六花に話しかけてきたのは、シノ・アルルシャール。同じく「転生者殺し」の第三作戦部隊の隊長を務めている。六花はこの「転生者殺し」筆頭と呼ばれていた両親の間生まれた娘で、組織内では知らない者が居ないほどの有名人でもある。だが、シノはシノでまた知らない者が居ないほど有名であった。13歳とは思えない程のプロポーションを誇る彼女は、男女問わず視線を集める。そして何よりも、余りにも特徴的すぎる彼女の「能力」が大いに関係している。


「シノちゃん、聞いてよー!カチン王国で痴漢事件が多発しているんだけど、現場に向かわせる人員をどうするかすっごい悩ましいんだよー!!」


「・・・・・・!!そ、それは大変だね・・・・・・」


 六花はガバッと起き上がると、シノに思いっきり抱きついた。六花がシノのお腹に顔を埋めるせいでその上に実る豊かな二つの山がムニッと押し上げられる。


「何でも相手がねスーハースーハー、目に見えないか遠隔攻スーハースーハー、撃で女の子のお尻やおっスーハースーハー、ぱいをまさぐったスーハースーハー、り揉みし抱いたりでやスーハースーハー、りたいほうだスーハースーハー」


「・・・・・・ちょっと落ち着こう?」


 シノのお腹の匂いを一心不乱に嗅ぎながら事情を説明しようとする六花をなだめる。ひとしきりシノの匂いを嗅いだ六花はようやく離れ、大きく深呼吸する。


「はぁ~~~~~~~~、やっぱシノちゃんのにおいってホントに癖になるよ・・・・・・」


「・・・・・・いいから続きを話そう?」


 ふう、とようやく落ち着いた六花は、状況を説明する。


「カチン王国で、痴漢事件が多発しているの。相手の姿が見えなくて、第三者から見て明らかに“触れている”っていうのがわかるんだって。だけどその能力が“透明化して触ってる”のか、“遠隔操作で触っている”のかがわかんないの。だから・・・・・・」


「・・・・・・仕掛けられるタイミングがわかんないから、現地の調査でどうするのが良いのかがわからないってこと?」


「そう、そういうこと」


 はぁ、と六花は先ほどとは異なるため息を吐く。


「どうにかして犯人の情報を集めたいんだけど、出来れば本人の直接的な証拠も欲しいから・・・・・」


「・・・・・・男の人で固めるのじゃダメなの?」


「あたしも前線に出たいし、男の人で固めると相手も手出ししなくなっちゃうかもしれないから。それに今回は目的地の人間にあたしたちが居るのを見られちゃ行けないから、余り人を連れて行けないのよ」


「・・・・・・そっか」


 今回六花が赴くことになるのは、「親転生者派」として名高いカチン王国である。彼女ら「転生者殺し」はカチン王国からすればまさに宿敵であり、いわば今回の任務は潜入捜査と言っても差し支えない。そして変な話、彼女らへ救援を要請した教会は「裏切り者」として処罰されてしまうだろう。


 その言葉を聞いたシノは、少々ためらいがちに六花に提案した。


「・・・・・・それじゃ、わたしが囮になる」


「え?それじゃシノちゃんは・・・・・」


 シノの身を案ずる六花だが、シノは頬を赤らめながらもしっかりと答えた。


「・・・・・・多分、囮になるのにはわたしが適任だと、思うから・・・・・・」


 そう言って、もじ・・・・・と身をよじるシノ。頬を赤らめマフラーで口元を抑え、そしてスカートを抑える彼女。その姿を見て、六花は心臓がドクン、と高鳴るのを感じた。


 確かに、こんなにグラマラスな少女が囮になるのであれば、男は思わずむしゃぶりついてしまうだろう。実際にそんなことを働くまいと理性を保つはずなのだが、一方的に有利な状況下で、果たしてそれが崩されずにいられるのだろうか。


「(多分、これが男の人が言う“ムラッときた”って奴なんだろうな・・・・・)」


 そんな事を考えていた時だった。


「やあ、話は聞かせてもらったよ!!」


「「!!」」


 突然、テーブルの下から白くて煌びやかな礼服を着たアルベルトがにゅっとスライドして出てきた。カーペットの上に仰向けに寝転がった彼は、快活な笑みを浮かべながら語る。


「そうしたら、ぼくも同行させて欲しい!!流石にシノ君だけでは不安だからな!!彼女の身はぼくがふぐぐぐぐぐぐ!!」


「あんたが来る方がよほど不安なんだよ!!」


 未だに寝そべったままのアルベルトの顔面を、六花が踏んづける。流石に思いっきりやると鼻骨その他諸々まで粉砕してしまいかねないのである程度は抑えるが、バッチリと六花は自分のパンツが目に入らないように目を背けさせる。


「ぶぐぐぐぐ・・・・・・でも真面目な話、シノ君を護衛できるような一定の実力者が同伴しなければならないとは思う」


「だからって、あんたみたいなセクハラ野郎を一緒に———————」


「わかっているさ。ぼくのような不躾な紳士をそばに置きたくないという気持ちは、ぼくはそう思われても仕方が無いと思っている。だけど、最悪の事態を考えるとぼくも出ざるを得ないと言うのも事実だ」


「むぅ・・・・・・・・・・」


 アルベルトの言うとおりだった。いくら「転生者殺し」が「転生者」専門に取り締まる組織とは言え、相手によっては普通の隊員では手も足も出ないことが往々にしてある。それを考えると、アルベルトが出ざるを得ないのはまさにその通りだった。


 それにアルベルトのセクハラもある程度は許容できる所もある。アルベルトは良くも悪くも、自分の性欲に対して正直過ぎる。女の子のスカートの中を覗こうと机の下に腕を組んで堂々と寝っ転がっているのなんかいつものことだし、お風呂に入ろうとすれば「一緒に入って良いか?!」って聞いてくる。だがこんな風に馬鹿正直に報告してくるから、驚くほど被害は出ていない。ただ言動が性欲に従順なだけなのだ。


「・・・・・・わたしも、彼の提案に賛成する」


「良いの?!こんなヤツだけど・・・・・・」


 まさかの同意を示すシノに六花は驚いている。だが、シノは小さくしっかりと頷いた。


「・・・・・・アルベルトくんは、信頼できるから・・・・・・」


 その頬の染め方は、先ほどとは意味合いが違うように思えた。

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