第13話 危険な現地調査

 そして数日後、六花達はカチン王国を訪れていた。六花は村娘然とした格好で国の城門をくぐる。更に大きめの眼鏡と赤いチェックのベレー帽を被り、端から見ればただの田舎町の少女だ。


「よくぞいらっしゃいました、“対転生者特別防衛機関”のお嬢様がた」


「“ナーリャガーリ大帝国”の“エンデ”より参りました、“対転生者特別防衛機関 第一作戦部隊隊長”六花・アイ・インフィニアートでございます」


「・・・・・・同じく、“第三作戦部隊隊長”シノ・アルルシャールです」


 教会のシスターに出迎えられ、袖膝丈まであるスカートの裾をつまんでお辞儀をする六花、そしてその仕草を真似するシノ。しかしその姿を見て、この教会の教皇らしき女性が複雑な表情を浮かべていた。


「本当に凄い格好でいらしたのですね・・・・・・」


「・・・・・・卑猥な格好をして居て、申し訳ありません」


「———————いえ、既にその理由についてはこちらで把握しております」


 シノの格好は、お世辞にも教会に入る人間のする格好とは言えなかった。


 一言で言えば、「ビキニサンタ」とでも形容できそうな格好だった。大きな袋は持っていないが、真っ赤なビキニを着用し、同色のニーハイを履いている。勿論肌の露出は凄まじいものであり、シノの持つ圧倒的なプロポーションをこれでもかと強調していた。


 ちなみに余談ではあるが、冒険者の中にはこのように露出度の高い衣類というのは、数が多いわけではないが一般的に知られており、意外と受け入れられている。そもそも「原初の魔女」「大賢者」などと語り継がれている人物は、常に裸だったのだという。故に女性冒険者(特に魔法職)が肌を露出するのは、こういった史実に則った慣習的な部分もあるのだ。


「さあ、外にいては“標的”になりかねません。早く中へ」


「お願いします」


 女教皇に連れられて教会へ脚を踏み入れた一行。足早に中を移動し、応接室へと案内される。通りがかったシスターは不思議な客人(主にシノ)に怪訝な視線を投げかけていた。


「お二人だけで来られたのですか?」


「はい。余り大人数を連れてくると周りのものに疑われるので」


「・・・・・・万が一にでも何かあったら、すぐにわたしたちに連絡が入ります」


「そうですか・・・・わかりました」


 女教皇が六花とシノを中へ招き入れると、ちょうど入れ替わるようにシスターがポットを持って外へ出て行った。


 シスターが外へ出て六花とシノが中に入るのを確認すると、女教皇は鍵を閉めた。


「遠路はるばるお疲れ様です。まずは紅茶でも」


「ありがとうございます」


「・・・・・・いただきます」


 席について紅茶を口元に持って行く二人。すると六花は何かに気付いたようだ。


「これ、“カーム天樹街”の紅茶ですか?」


「はい。天樹“ユグドラシル”の頂上に開墾された街の豊かな土壌で育った茶葉をふん


だんに使用しております」


「あたしの母、そこの出身なんですよ」


「え?!あの“魔界姫”の?!」


 六花の言葉に女教皇は口に手を当てて驚いていた。


「はい。母の出身の街なんですけど、元々そこは村だったんですよ。けど“ラグナロク”の後で村が半壊してしまって、その時に母の“お友達”だった“ウルカヌス”がこの村の苗床になるために、村に中心に根を張ったんです。そしてそのまま“天樹”になって村に豊穣をもたらして、さらにその頭の上に新たに街を作れる様にしたと・・・・・・」


「そうだったのですか・・・・・・あの天樹、本当に綺麗で御座います。“魔界姫”が持つ“煉獄の龍紋”による“神滅の焔”がまるで桜のようで・・・・・・失礼しました」


 こほん、と咳払いをして落ち着きを取り戻す女教皇。その前ではこっそりと六花とシノは目配せをして居た。


「(・・・・・・とりあえず毒は入ってないみたい。一先ず大丈夫そう)」


「(これでもし毒でも入れてたら、半殺しにしてやるところだったわ。お母さんの故郷の茶葉にになんてものを仕込みやがった、って)」


 そんな物騒なやり取りなどつゆ知らず、女教皇は語り始める。


「それでは、こちらの状況をお話ししましょう。」


 そして、女教皇から今のカチン王国の現状が語られた。






「・・・・・・・・・・・・・・」


 王宮の一室で、その少女は椅子に座ったままずっとうつむいていた。絢爛豪華なドレスに身を包み、頭にはヴェールを被っている。しかし端から見ると「ドレスに着られている」様な不釣り合いな印象を与える。


 本人は栗色の髪を腰まで伸ばし、同じ色の瞳がくりくりとして居る。王族の娘というよりは、どちらかというと村娘のような雰囲気を醸し出している。


 今までただ家族と一緒に花屋を営んでいただけだった。大して裕福なわけでは無かったが、それでも満足した日々を過ごしていた。


 なのに、なんでこんなコトになってしまったのだろうか。


「ビビアン様、具合が悪そうですが・・・・・」


「あ、はい、大丈夫、です」


「そうですか・・・・・・・では、そろそろ“光魔法の訓練”を行いますので、来ていただけますか」


「あ、はい」


 ビビアンと呼ばれた少女は椅子から立ち上がり、メイドの方に歩いて行く。だがその途中でこてっと躓いて倒れてしまった。


「だ、大丈夫ですか?ビビアン様」


「あ、はい、大丈夫です。ちょっと、履き慣れて、いない、だけなので」


 メイドの手を借りて立ち上がるビビアン。手を引かれながら歩くが、その足取りはフラフラとしていた。


「(うう・・・・・・なんでこんなに高いヒールなんて履かなきゃいけないの・・・・?)」


 決して顔には出さないように、ビビアンは心の中で不満を口にしていた。よろよろとしながらもどうにか大きな扉の前にたどり着く。そしてその扉が開かれると、王宮の中庭が広がっていた。


「ビビアン王女、お疲れ様です」


「あ、はい、カイトさん、どうも、お疲れ様、です」


 ガチガチと緊張しているビビアンは、がに股でスカートを鷲づかみ、ぐにっと必要以上にたくし上げた。


「相変わらず不格好な礼ですねぇ。まあ、先日まで村娘でしたから、しかたがありませんか」


「あ、はい、お気遣い、ありがとう、ございます」


「では、ごゆっくりしてくださいませ」


 そう言って中庭から出ていったメイド。中庭にはビビアンとカイトだけが残される。


「それじゃあ早速始めますか」


「あ、はい、お願いし、ます」


 こうして、ビビアンの「聖女修行」が始まった。







 女教皇の話をまとめるとこうだ。


 一ヶ月前から村娘達の間で「誰かに触られている気がする」と噂になっていた。最初は気のせいだったと考えていたが、相次いで似たような報告があり、気のせいだと一笑に付すことが出来なくなってきた。そこから半月が立った頃、村娘やシスター、冒険者達から「胸や尻をまさぐられている」という報告、実際に目に見える形で被害が出始めたのだという。この余りの執拗な接触行為によって人前で痴態を晒す羽目になり、いよいよ問題となったために「転生者殺し」に依頼を出したのだという。


「一ヶ月前、ですか・・・・・・何か心当たりはありますか?」


「一ヶ月前・・・・・・・・いえ、特にありません」


「「・・・・・・?」」


 そう口にした女教皇だが、一瞬気まずそうな表情を浮かべた。それに違和感を覚えた六花は、早速女教皇に詰め寄る。


「何かあるんじゃないのですか?」


「い、いえ、何も・・・・・・」


「何か小さな事でも良いんです。教えてくださいませ」


 六花は一歩引いた感じで聞いてみているが、内心では猜疑心MAXだった。


「(絶対“アレ”やってる)」


 何か隠そうとしているそぶりを見せる女教皇に、六花はある確信に至っていた。どうにかそのことを聞き出せないか、と考えていた時だった。


「きゃぁあああああああああああああああ!!」


 部屋の外からシスターの叫び声が聞こえてきた。何事かと六花とシノ、女教皇が部屋から飛び出すと、ぞろぞろとシスター達が集まっていた。


「どうしました?」


「教皇、シスター・エレナが・・・・・・」


 群がるシスター達の中心には、大理石の床にぺったりと座り込みすすり泣いているシスターがいた。クリーム色の髪の少女は顔を真っ赤にして、修道服を抑えている。


「教皇、パンツ取られちゃいました・・・・・・」


「ッ!!どこの不届き者ですか!?」


「それが、誰も目撃者がいないのです」


 エレナの言葉に一斉に緊張が走る。だが、その後に判明した事実で同時に不安もよぎる。


「(絶対アイツだ・・・・・・!!)」


 六花が身構えて周囲を警戒していたときだった。


「・・・・・・や、やぁっ・・・・・・・・!!」


「!!」


 苦悶の声を上げるシノ。六花達はすかさず彼女の方を振り向いた。するとその先では、シノが下腹部と右胸を押さえて呻いていた。




「・・・・・・やだ・・・・・・やめて・・・・・パンツが脱げちゃう・・・・・っ!!」


 シノの真っ赤な下衣はずるりと下がり、お尻が半分見えていた。

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