第二章 沢田英雄「タッチ・アンド・ドラッグ!! ~スマホみたいに触れるスキルを手に入れたら痴漢魔として生きていく羽目になったんだけどどうしたらいい?~」

第11話 女の敵

 その日、六花は緊急事態としてエミリアに呼び出されていた。


「エミリア総帥、緊急事態とは何事でしょうか」


「うむ。率直に言いたいところではあるのだが、まずは順を追って話そう」


 エミリアは机に肘を突き、手を組んで話し始めた。


「まず先日確保されたフローラ嬢だが、その出身がカチン王国であることは知っているな?」


「はい、我々のデータベースにも記録されており、実際に本人であると確認できました」


「では、彼女の実状についてどれだけわかっているか?」


「はい、ええと・・・・・・・・」


 六花は顎に手を当てて記憶を辿り始めた。


「カチン王国自体についてですが、この国はそもそも“親転生者派”を強く協調している国であり、実際にこれまでに何度も“召喚の儀”の申請を出している(しかし現状では動機が不純であるとして認めていない)のを確認しています。勿論王族は皆“異世界の英雄”に対して強い信頼を置き、一方で我々と敵対関係を明確にしています。未だに法に則って申請を出しているのが不思議です」


「ああ、その通りだ。この事実を念頭に話を進めさせてもらおう」


 すると、エミリアは一枚の書類を六花に見せた。それは「依頼受付書」だった。しかもそこには「依頼人:カチン王国 アモール教会 教皇」と書かれている。その内容に、六花は怒りを覚えた。


「カチン王国が依頼・・・・・しかも痴漢行為の調査、ですって?!」


「ああ」


 厳かな雰囲気でエミリアは立花に告げる。


 彼ら「転生者殺し」に舞い込む案件の中には、痴漢行為などの「わいせつ行為」を取り扱うものも少なくない。寧ろ全体でも10%を占めるほど割合としては大きい部類に入る。


 そもそもこの「わいせつ行為」という言葉自体オブラートに包んでいるだけに過ぎず、実状として「性的暴行」と言っても差し支えなかった。とある村の村娘を始め、様々な女性に催眠を施して、有無を言わせず行為に及ぶ・・・・・・といった事案は呆れるほど存在していた。


「ざっくりと話すと、一ヶ月前から痴漢行為を働く輩が現れ始めているそうだが、その肝心の犯人が一切見当たらないのだそうだ」


「目撃者不明?それってどういうことですか?」


「うむ、こちらの紙にその証言の一部を記載している」


 エミリアに手渡された資料に目を通し、六花は露骨に嫌な顔をした。


「・・・・・・・・・うっわ」


「うむ、お前がそう言う顔をしたくなるのもわかる」


 六花が目にした紙によると、被害者は「村娘138人、冒険者(女)82人、ギルド職員(女)28人、シスター18人、騎士団員(女)9人」だという。そしてその内容は「被害者女性は皆、胸や尻を中心に、まさぐられる、揉みし抱かれる、強く叩かれるなどの感覚を覚えていた」「第三者から見て、明らかに胸や尻を中心に衣類や装備品がまさぐられているのが見えている」という。


 だが、その肝心の相手の特徴が見当たらないのだ。これはつまり「姿の見えない相手」であることを意味している。・・・・・・・・・・女性からしたら恐怖でしか無い内容だ。


「しかし総帥、なんで私にこの案件を?男性にしてくださいよ」


「もとよりそのつもりではある。今回君に第一に話したのは、ひとえにフローラ嬢に直接関わったのが君だからだ。だから今回の任務は他の者に着いてもらおうかと考えているのだ」


「そうですか・・・・・・いえ」


 六花はむかむかむか、と眉間に皺を寄せた。


「あたしにやらせてください。女を下に見ているような奴の事を、あたしは放って置けません」


「しかし、相手は十中八九“転生者”だぞ?しかも相手は平然と“痴漢行為”に及ぶ奴だ。女のお前では相性が——————」


「だからこそあたしが行きたいんです!!女だからこそ、そいつの鼻っ面をへし折ってやりたいんです!!」


「・・・・・・・話すんじゃ無かったかな」


 はあ、とエミリアは頭を抱えていた。実際「転生者」に関わった女は基本的に屈服させられることになる。そのためエミリアが最前線に居た頃は、食らいついていけるのがかろうじて自分と今は亡き「戦乙女」の使い魔の少女ぐらいで、後は基本的に男だけだった。


 だからこそ、六花の気持ちが痛いほど解る。


「わかった。ただし当たり前ではあるが、男性隊員をバックアップとして確保しておくことだ。奴の能力で洗脳されて全滅、なんて笑い話にもならんからな」


「はい。心してかかります」


 既にやる気満々の六花。失礼します、と言ってややがに股気味にのっしのっしと部屋を出て行った。


「・・・・・・・・心配ではあるがな」


 エミリアは彼女が生まれた時から知っている。六花自身はかなり理論的に話が出来るのだが、一度熱くなると止められないほどの爆発力を持っている。いつしかこれが彼女に癒えない傷を負わせる羽目になるのでは無いかとヒヤヒヤして居るのだ。


「父親の冷酷さと母親の温かさ、そして二人に共通する優しさ、か・・・・・・・・」

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