第10話 後始末
「ご苦労だったな、六花」
「はい、おかげさまで町にまた水を引くことが出来ました。これで町の方の被害は最小限に抑えられたはずです」
「それは良かった」
鋼沢を取り押さえた六花はせき止められていた川を解放し、再びアルゴン川へ水を流すことが出来た。以前ほどではないが水量が戻ってきており、少なくとも最低限農耕を再開することは可能になった。
だが、被害を被ったのは人間だけでは無かった。寧ろ、それ以外の部分への影響が大きい。
「湖の方はどうだ?」
「・・・・・・・本来あったであろう水深の10%にも満ちていません。あれでは、元々棲んでいたモンスターも住み着かないでしょう」
調査時よりは水が溜まっているとは言え、元々の水深には決して及ばない。勿論少量の水でも生きていける生物もいるが、中には複数の条件を満たして始めて生存できるものも存在する。
湖の水を抜くと言うことは、それだけ生態系に重大な影響を与える行為なのだ。
「今、鋼沢————いや、クリスと言うべきか。奴の家系であるエルデュナメス家に責任を追及しているところだ。まさかこんな暴挙を働く者がこの時代にもいたとはな。能力に直接関係が無かったとはいえ、川をせき止めるなどと言う発想はなかった」
「そうですね。それがどんな影響を与えるかと考えれば、余計にですね」
鋼沢がしたことは重大な責任を問われるようなこと、「知らなかった」では済まされない。何事にも責任というものが付随して回るのだ。その中身が17歳という年齢であれば、なおのこと理解して居なければならない。
「ただ、私が個人的に気になるのはフローラ嬢の方です。彼女は“親転生者派”の人間であるのは疑いようがないのですが、なにゆえ彼女が追放される羽目になったかということですね」
「ああ。ここ最近ではそういった不自然な下克上が行われているのが気に掛かるな」
噂に聞けば、異世界の娯楽である「ライトノベル」というものの中には、このように王族の子息に婚約破棄を告げられた聖女が、全く異なる分野で成り上がるという物語が一定数存在しているらしい。このストーリーがこちらの世界にも反映されているのならば、フローラもその類いの「転生者」なのではと疑われていた。
だが、彼女の事を調べても「転生者」の反応は出ていない。もしかしたらそういったものとはまた別の問題なのかもしれない。
「今回の件に加担していたことも気になるし、もう少しこちらで探ってみようと思う。今日はもう上がって良い」
「ありがとうございます」
六花はエミリアに一礼して総帥室を出る。
「(“聖女”、か・・・・・・・・・・)」
一見すると誉れ高い印象を受けるこの単語。だが、六花はなぜか余り良い印象が無かった。「異世界の英雄」「勇者」「賢者」などのように、蛮行を半ば認められるような称号と同じように考えてしまうからなのか。
「兎に角、まずはあの子達の所に行っておかないと」
歩き出した六花。彼女の向かった先は総研だった。
「お疲れ様です、六花隊長」
「ロゼちゃんお疲れ~!」
六花が訪れたのは、総研の中の「魔獣保護区画」と言われるエリアだった。ここには「転生者」の影響で居場所を追われたり、重傷を負ったモンスターを保護するエリアとなっており、保護した対象や数によって使用する薬品や水槽などが異なってくる。
「わぁ・・・・・・改めてみるとおっきいね」
「そうですね。このベニダイショウは成体ですので、他のモンスターとは一線を画すサイズとなっています」
シノが訪れた水槽には、紅色の鱗が鮮やかな大蛇型モンスター「ベニダイショウ」が収まっていた。彼(?)は液面から首をもたげて、興味深そうに六花達の方に鎌首をもたげていた。様子を見ている限り、六花達に敵意は抱いていないようだ。
「これだけ大きいと、保護にかかる費用も相当なものになりそうね」
「ええ。今では容態は回復しただの水にして居ますが、初回のみランクAの回復用ポーション200万リットルを用いて療養させました」
「・・・・・・ちなみにどれくらいかかった?」
「ざっくり言いますと、2億Gはくだらないですね」
「うっへぇ」
金額を聞いて六花は驚くを通り越し、もはや呆れていた。組織の経費とはいえ、流石にこれだけの金額を聞くと呆然とせざるを得ない。ベニダイショウの症状が比較的落ち着いていたからこそこれだけで済んでいたコトを考えると、如何にモンスターを保護することが大変かを思い知らされる。
「そう言えば、あの子はどうなったの?」
「ああ、残った最後の卵ですか。現在も医療用水槽の中で治療を続けています。治療開始時は非常に危険な状態でしたが、今はだいぶ安定しているようです。危篤状態にあったため孵化時期は不明ですが・・・・・・・・」
「良かった・・・・・・・・」
その言葉を聞いた六花はほっと胸をなで下ろした。いくらほぼ死にかけていたとは言え、4つのうち3つをダメにして居たため、六花はそのことに負い目を感じていたのだろう。
六花はベニダイショウの水槽に近づき、その顔を見上げた。
「ごめんなさい。もう少し待っててね。あなたにお子さんを、必ず帰すから」
「・・・・・・・・・・・・」
ロゼはその姿を見て、「魔界姫」の姿を写し見ていた。モンスターと心通わせていたと言われる彼女。まさにその姿と瓜二つだった。
感慨深そうに、ロゼはその姿を見守っていた。
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