第3話 干からびた湖と卵

 ネオジム樹海の上空に、数匹のグラス・ネウラがババババ・・・・と轟音を鳴らして飛んでいた。そのうちに一体が抱えているコンテナからはワイヤーが伸びていて、スノードリフト達が捕獲したベニダイショウが引き上げられている。


「スノウ、アイビス。来たわよ。報告にあったベニダイショウは今、研究所に移送しているわ」


「来たか。」


 そして六花はスノードリフトとアイビスが信号を発していた地点に合流した。鬱蒼とした森において、比較的開けた場所だった。


 なのだが。


「・・・・・・・ここ、本当に湖なのよね?」


『事前にインストールしてある地形情報と照らし合わせた結果、“エルカク湖”の座標と一致する。当地域において入念な調査を行うことを提案する』


「そりゃするでしょ」


 枯れたアルゴン川を遡ってたどり着いた結果、本来あるはずの湖が干上がっていた。厳密に言えば見ず底に堆積していた泥が残っているのでそう言えないのだが、元々あったはずの水かさを考えるとそう表現していても問題ないだろう。


「皆!!ここを調査するわよ!!」


「「「了解」」」


 六花と共に下りてきた調査隊が一斉に泥の中に脚を踏み入れ様々な地点で機械を差し込んだり、手探りで何かを探したりして、各々調査を進める。


 しばらく調査を進めていると、調査隊の一人が声を上げた。


「六花作戦隊長!!これを!!」


「これは・・・・・・・・・」


 泥の中から拾い上げたのは、両手で抱えられるくらいの大きさの白いカプセルだった。泥にまみれているので汚いが、それを拭ってみるとコツコツとした質感の殻が露わになる。


「多分これ“ベニダイショウ”の卵だ・・・・・・・」


「ほぼ同じ箇所にもう2・3個ありました」


 他の隊員も同じ場所を探ってみると、やはり同じように白いカプセル—————否、卵を発見した。しかしその表面をよく見ると余り良い状態では無さそうだった。


「おかしいわね・・・・・・ベニダイショウの卵って、本来もうちょっと弾力があるはずなのに・・・・・・・」


「卵ってそう言うモンじゃ無いのか?」


『爬虫類型魔獣の卵は鳥類型魔獣と異なり、卵殻にはある程度の弾性を備えている』


 生物学的な部分には精通していないスノードリフトの疑問に、スリットから紫の光を放ちながらアイビスが答える。


『バイタルチェック結果、生命反応が著しく低下していることを確認した』


「ってことは、この卵は・・・・・」


「つまり死にかけってことか。」


 ベニダイショウの卵は、本来水分の豊富な水辺で孵化させなければならない。だが、ほぼ随分が干上がってしまっているこの湖では必要な水分が不足しており、孵化するための条件を保てなくなっていたのだ。


『本件は自然環境に由来する因子のため、不当に介入しないことを提案する』


「だってさ。とりあえず泥ん中に返して調査を続けようぜ。」


「・・・・・・・・・・」


 心ないことを口にする二人。だが、六花はそれをよしとしなかった。


「いいえ。これはこの事件の被害者を見捨てることになるわ。それは瓦礫に閉じ込められた被災者を野放しにしておくのと同じ。あたしはこの卵を放っては置けない!」


 そう言って六花は卵をひったくり、表面の泥を出来る限り落とし、そっと地面に並べていく。


『コードネーム:リッカ。不当な介入は依頼に含まれていないはずだ。自然環境へ早急な返却を要請する』


「だめよ。この隊の決定権はあたしにあるんだから。それに


 そう言って1箇所に集めた卵に左手をかざした。すると彼女の左手の甲に青白い紋章が浮かび上がる。雪の結晶を思わせるそれが輝き、卵の周囲が青白い光に包まれる。


 そして完全に卵が包まれた瞬間、六花は叫んだ。


「“深冷氷結”!!」


 パキン、と一瞬で卵は氷漬けになり、白い冷気を放っていた。


「あたしは一旦研究所に行って、この子達を“解凍”してくる!!その間にあなたたちはこの先を調査しといて!!」


『承知した』


「おい、ここの調査はどうするんだ?」


「ロゼちゃんたちに来てもらって、引き続き調査を行う。スノウとアイビスはここから先の上流に何があるかを調べてきて」


「マジかよ・・・・・・。」


 面倒臭そうな様子を見せるスノードリフト。それと対照的にすぐさま先へ進もうとするアイビス。


『コードネーム:スノードリフト。現場での最終決定権はリッカにある。当機体は命令に従って任務を遂行するまでだ。調査の続行を強く推奨する』


「けっ、わかったよ。」


 そう言いながら、スノードリフトはアイビスに付いていく。


 上空にババババ・・・・というヘリコプターの様な爆音を立てて滞空している輸送機。上の隊員から卵を引き上げるための籠が下ろされてくる間、六花はある懸念を抱いていた。


「(それに、あたしの勘が間違ってなければ————————)」


 その存在は、彼女らの存在意義そのものだった。







「(今回の任務、“転生者”が関わっている。)」

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