韻を踏むのが上手い隠キャが覚えたてのラップでイキってるDQNをぶちのめす
月ノみんと
第1話
「俺爆笑、快勝、大脱走! いええええー!」
高校の昼休み、クラスのDQNがやたらとうるせえ。
俺は静かに過ごしたいのだが……。
おぼえたてのラップで猿みたいに喜んでいやがる。
なぜ俺がこれほど喧嘩腰かって?
当然だろう、奴らが俺の机の上に座って騒いでるからだ。
俺はちょっとトイレに行っていただけだ。
戻ったらさっき読んでたラノベの続きを読もうと思っていたのに。
机の上に置いてあったお気に入りのラノベは――DQNのせいで地に落ち、踏まれ、ぐちゃぐちゃに汚れている。
「はぁ……」
まったく、高校生にもなって落ち着きのない奴らだ。
俺は自分の席を取り戻すべく、ボス猿に話しかける。
せめて人間の言葉が通じることを願うばかりだ。
「あの、そこ僕の席なんだけど……」
「あ? なんだって? 声が小さくて聴こえねーよ!」
――むかっ。
それはお前らがスマホでバカでかい音楽をかけてるからだろうが!
俺は思わず机の角を足で蹴った。
――ドン。
DQNが大勢を崩し、机から尻を滑らせる。
「ギャハハハだっせえwww」
とりまきのギャルがそのようすを笑う。
DQNが俺の方を睨みつける。
「んだよテメェ!」
俺の胸ぐらが乱暴につかまれる。
「それはこっちの台詞なのだがな? そこは俺の席だ」
「は? キメえんだよ陰キャ!」
DQNが俺への距離をさらに詰めるべく、一歩踏み出す。
その拍子に、地面に落ちた俺のラノベの表紙がまた踏みにじられる。
くそがッ!
「キモいのはお前の方だ猿ヤロウ!」
俺は怒りにまかせてDQNの足を踏みつける!
「……っつー!?」
「ぎゃははははは! やり返されてやんのーwwwマジウケるww」
「っるせえよ!」
ふん、いい気味だ。
「おい、てめえ陰キャのくせになに俺の足踏んでんだよ!」
「は? 先に踏んだのはお前のほうだが?」
「は? わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!」
DQNが俺を殴ろうとしたその時、とりまきのギャルの一人が待ったをかけた。
「ねえ! やめなよ!」
「はぁ? お前こんな陰キャのかたもつのかよ?」
「そうじゃないけど……」
見かねたもう一人のギャルが急に提案を持ち掛ける。
「あ、ねえ!」
「なんだよ……」
「暴力じゃなくって、ラップで勝負つけるってのはどう?」
「お! いいねぇ! それなら公平だ」
なんだか妙なことになってきたぞ……。
ラップ?
なぜ俺がそんなことをやらなければならない。
まあ俺も腕に覚えがないわけではないが。
俺は普段からラノベばっかり読んでいるせいで、語彙だけは無駄に豊富なのだ。
「まあいだろう。俺は構わん」
「はっ! あとで吠え面かくなよ。陰キャにラップなんかできるわけねえ」
「ようし、それじゃあはじめ!」
ギャルがそう言うと、間の抜けた音楽が流れだす。
ほう。
まあこのトラックは俺の趣味ではないが。
初心者にもノリやすい、軽快な音楽だろう。
まあハンデにはちょうどいい。
「じゃあ俺からいくぜ!」
そう言ってDQNがラップを考え始める。
さっさとしてくれ。
これじゃあ即興でもなんでもない。
「陰キャなお前は人生辛い、陽キャな俺は人生楽しい♪ 教室の隅で泣いていろ。俺は教室の王者幅利かすイェー!」
ふん、単純なフロウだな。
俺の番だ。
見ていろ、これがラップというものだ。
「陰キャだからと舐めちゃいけねえ、INしてみやがれ俺の
まあこんなものかな。
おや?
みんななぜ黙って俺を見るのか。
「す、すごーい! すごいじゃん杉山!」
「お、そうか?」
どうやらこの頭の悪そうなギャルたちでも俺のすごさはわかるようだ。
「え、ラップやってんの!?」
「ま、まあたまに……」
「すごーい! かっけぇじゃん!」
なんだか照れるな。
だがDQNは面白くなさそうだ。
「ふん、そんなヤツ大したことねーよ」
「だが俺の勝ちだ」
「ま、まあ今回はそれでいいぜ」
「じゃあ俺の席を返してもらおうか」
ふう、ようやく休み時間を堪能できるなぁ。
と思ったのに。
何故だ。
「なぜお前たちはまだここにいる?」
DQNはとっくのとうに自分の席に帰っていったのに、ギャルたちは俺の周りにいるままだ。
「えーだって、もっと杉山とお話したいじゃん」
「そうそう、杉山のこときかせてよ」
やれやれ、これだから実力は隠しておきたかったんだがな。
俺の平凡な日常は、どうやらまだ帰ってこないらしい。
韻を踏むのが上手い隠キャが覚えたてのラップでイキってるDQNをぶちのめす 月ノみんと @MintoTsukino
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