第32話
ま、そのうち飽きると思う。
ネットとはいえ、人の噂も何とやらだ。
そう思っていたんだけれど、よりにもよって面白がったテレビ局からジーンさんへ打診があったらしい。
あたしのことを調べるよりも、リリアさんのスケジュール方面から勉強会参加者だと当たりをつけたようだ。
曰く、番組のテコ入れも兼ねて新しい【
ジーンさんから、その連絡を受けてあたしは秒で返信した。
『お断りします』と。
誰が顔だしするか。
家族にも相談はしなかった。
する理由がないからだ。
ジーンさんからは、了解との返信がきてこの話は終わった。
かに見えた。
「姉ちゃーん」
その日、実に申し訳なさそうにマリーが声をかけてきた。
「なに?」
「いや、そのさ、テレビ出る気ない?」
この数分後、あたしはマリーに馬乗りになって妹を締め上げる事になる。
ガチでキレたの何年ぶりだろ?
HAHAHA。
いつもと違う騒ぎに、タマとエリーゼが泣きながら止めに来たので事なきを得た。
ちなみに、マリーは何故か締めあげられながらどこか嬉しそうにしていた。
まさかそっちの趣味に目覚めたとかじゃないだろうな。
「テレビというか、動画だよ動画」
妹がそう言ったのは、家族がほぼ全員揃っている食事の時だった。
今日、お父さんは残業で遅い。
そんなわけで、いま食卓にお父さんの姿は無かった。
「それは、どう違うんだ?」
と、訊ねたのはじいちゃんだ。
農作業で汚れていたリザードマンであるじいちゃんの体は、食事前のシャワーのお陰で今は鱗がピカピカしている。
「放送する場所、かな?」
妹が説明する。
要するに、地上波か動画投稿サイトかという違いだ。
動画をあげたSNS、そこに登録してある妹のアカウントにダイレクトメールが届いたのだ。
書かれていたのは、動画投稿サイトで活動している実況者からのお仕事打診の内容だった。
それも、あたしも好きで時々観ている動画チャンネルの主からの打診だった。
一通り説明し終えたマリーに、ばあちゃんが聞いた。
「でもなんで、マリーは姉ちゃんに相談せずそのお仕事受けますって返しちゃったの?」
マリーが、ちらっと横に座るあたしを見て、それから恥ずかしそうに答えた。
「それは、姉ちゃんが」
「ココロが?」
「元気、無かったから。
こういうお祭り騒ぎに参加したら、ノリで元気になってくれるかなって」
あたしはそこまで能天気じゃないんだけど。
あと、元気が無かったってのはアレか。
下手に喧嘩で罵ることが無くなったから、それをそう受け取ってたのかコイツ。
「なるほどねぇ」
って、ばあちゃん、それだけ?!
もうちょっと注意するとかさ?!
怒るとかさ?!
あとマリー、あんたの中であたしはどれだけ単純な脳みそしてるんだ!?
「それに、この話を持ってきた動画投稿者さんも顔出しNGの人だから、その辺配慮してくれるんじゃないかなぁって」
つまり、期待と打算で、確認はしていないわけか。
あたしは盛大に息を吐き出した。
「あのねぇ、だからって勝手に承諾をするんじゃないよ」
「ん? 承諾なんてしてないよ?」
「は?」
「そういう話が来たから、姉ちゃん出てみない? っていう報告を今してるだけ」
あたしはマリーの頭を軽く叩いた。
「いたっ! なんで打つのさ?!」
「言葉足らずにも程がある!」
「だから悪いかなぁって思って締めあげられてやったじゃん!!」
あー、もぅ!
こういう所、本当、
「何様のつもりだ!」
「エルフ様だ! どうだ! すごいだろ!!」
マリーが胸を張って返してきた。
そうやってまた喧嘩しそうになるのを、母が止めた。
「いい加減にしなさい!!」
そうしておもむろに立ち上がると、あたしとマリーの首根っこを引っ付かみ、玄関へ連行されたかと思うと、乱暴に外へ放り出された。
「ギャーギャー、ご飯時にうるさい!!
二人とも頭冷やしなさい!!」
ピシャ!っと戸が閉められた。
「姉ちゃんが締め上げるから!」
「マリーが勝手なことしなけりゃこんなことになってないでしょ!!」
「やるかババァ!?」
「上等だ、このガキ!!」
そうして取っ組み合いの喧嘩が始まって、程なくして帰ってきた父に止められたのだった。
ご近所?
大丈夫、田んぼ三枚分離れた場所にあるから聞こえてないと思う。
うん、聞こえてないといいなぁ。
多分、大丈夫。だと思う。うん。
あー、ちなみに、姉妹喧嘩でも取っ組み合いをする姉妹はするので、ケースバイケースだ。
無言の冷戦状態になる姉妹もいるので、ウチと違う! とは言わないように。
よそは他所、ウチは家である。
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