第33話
さて、結局あたしは動画の方の企画に参加することにした。
散々ゴネてたクセになに掌返してんだ、と思ったそこの貴方、たしかにそう、その通りだ。
あたしが、この企画に参加することに決めた理由は二つ。
一つは、主催者であり、普段はゲーム実況等をしている投稿者さんに会いたかったのだ。
ファンなのだ、あたしが。
もう一つは、お父さんの言葉に背中を押されたからだ。
「人生の思い出になるから、やってみるのもアリだと思うぞ」
と。
それもそうか、とあたしは考えた。
その舌の根も乾かぬうちに、お父さんは続けた。
「色々経験させてやらないと、お前もヤマトみたいに家出しかねないし」
おい、余計なお世話だ。
家出る時は、ちゃんと玄関から行ってきますするから!!
お兄ちゃんみたいにTシャツとジーンズでふらっと居なくなったりしないから!!
そして、マリーを間に挟むのではなく、自分から主催者さんへ連絡を取り、ジーンさんへ念の為この企画について相談に乗ってもらったりして、話を進めて行った。
その際、主催者さんにいくつか条件を打診した。
顔だししないとか、そういう条件だ。
そのほぼ全てを主催者さんは受け入れてくれた。
ここまであたしにとっていい話過ぎると、なにか裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
そうそう、企画内容についてだけれど、まぁ主催者さんが実況者でもあるので、彼(主催者さんは男性)のチャンネルにてテイマー同士の対戦、その生配信ということだった。
今は専用の機材さえあれば、好みの声に瞬時に変えられるし、やろうと思えば魔法でその姿を別人に見せることだって出来る。
ただ、この人の動画の場合前者はともかく、後者はほとんどやらない。
後者をする場合、前者をやらないと決めているのだそうだ。
主催者さん曰く、姿も声も変えたんじゃ面白くないからだそうだ。
それよりも、可愛い見た目で声がおっさんとかの方が受けが良いらしい。
健全な特殊性癖のようなものだ。
健全な特殊性癖って、字面だけだと嘘をつかない政治家、もしくは詐欺師みたいだ。
そんなこんなで色々打ち合わせをした結果、対戦時のあたしの外見と声を変えることが決まった。
ロマンスグレーのイケおじ外見で、声は幼女というミスマッチどころか、こんなん誰が好むんだ?
という、むしろ滑ることを目的としたギャグのようなキャラメイクだ。
主催者さんや、この企画に協力してくれている他の動画投稿者さん達はとても面白がっていた。
さて、こんな姿でいきなりタマに指示を出せるかという問題が浮上したが、タマにはいつも通りのあたしに見えていることがわかったので、問題はすぐに解消された。
そうしてお膳立てされた舞台。
対する相手はと言うと。
「え、なんでこの人達も参加するんですか?」
『そうなんだよ。
なんか、雪辱を晴らしたいっぽいよ?』
いや、それはリリアさんの方なんだけど。
打ち合わせはほとんどこれ、古風な言い方をするなら所謂テレビ電話だ。
最初こそ電話、音声通話のみだったが、うちの家族への挨拶をしておきたいということで、今の形になった。
パソコン画面の向こうで、主催者さんもなんでかなぁといった表情で言ってくる。
ちょっと前に色々あって普及したテレワーク、といえば想像しやすいかもしれない。
あと子供向け特撮ドラマとかで出てくる悪の組織が大体取り入れている、画面越しでの会議模様とでもいえば、もっと想像しやすいだろうか。
『本当は、テイマーでもある、俺の動画投稿者仲間とだけ対戦してもらうはずだったんだけどねぇ。
どこでこの話を聞きつけて来たんだか。
あ! チーちゃんにムーちゃんこんにちは〜』
主催者さんは、
『ねぇねぇ何してるの?』
『あ、ここ暖かいや』
とばかりに、にゃうにゃう鳴きながら集まってきたウチのもふもふ、もとい猫たちの登場に頬を緩める。
そこに、タマもやってくる。
交ぜて交ぜてーとばかりに、あたしの膝に乗っかった。
『いやぁ、もふもふハーレム、羨ましいなぁ』
ふふふ、そうでしょう。そうでしょう。
あたしは内心胸を張る。
どうだいこのもふもふハーレム、全部あたしのだよ。
「ありがとうございます」
打ち合わせは毎回このように、猫達やタマの介入がありつつ穏やかにのんびりと進んでいく。
そうして、いよいよ生配信の日取りと対戦相手の調整などが出来たという業務連絡も兼ねた打ち合わせが終了した。
パソコンの電源を落とし、自室へ向かう。
それから、ベッドにゴロンと横になると、あたしは手書きでメモしていた紙を見た。
そこには、当たり前だがあたしの字で、先述したように今回の企画である生配信の日と、対戦相手の名前が書かれている。
主催者さんの言葉でお気づきの方もいるだろう。
そう、対戦相手にはリリアさんもそうなのだが、エリスちゃんもいたりする。
前回は、育て始めて間も無い
今回はその汚名を雪ぐため、彼女は、十分に育てたモンスターであたしに挑むらしい。
彼女もなかなか負けず嫌いのようだ。
それは別にいい。
少し気になったのはエリスちゃんだ。
たぶん、エリスちゃんは力関係的にリリアさんに逆らえないんだろうとは思う。
でも、だからって殺人の手先になんてなるか?
なにかあるんだろうが、あたしにはわからないことだ。
それよりも、懸案事項が増えてしまった。
それをどうするかが、あたしにとって、今最大の問題である。
「新しい
対戦相手の人数全員をこなすには、タマだけでは無理がある。
せめて、少なくとも、もう二匹ほど確保しなければならないとなってしまったのである。
さて、どうしたものか。
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