アルコール度数20% 乙類焼酎など。

 警察が来た。

 通勤途中、スーパーの裏の歩道に乗り上げセダンが堂々と路駐しているなぁと思ったら、どうやら覆面パトカーだったらしい。

 警察は天下御免だがその傲岸さが彼らの特殊性を指し示しているときがある。

 いつも思うことだが、制服警官以外の警察官は皆不審者だ。

 午前中の終わり、昼用の精肉を終えたところで急に


「大牟田さん」


 と真壁まかべ店長に声をかけられた。

 声はいつもどおりだったが眼鏡の奥の瞳には若干の緊張があった。


「はい」


 と答え、二三歩進むと、二人組の男が関係者以外立入禁止のバックヤードに入り込み立っていた。

 背の高いスーツを着たほう年嵩のほうが言った。


「埼玉県警のものですが、少し良いですか?」


 そしてちらっとだけ写真入りの警察手帳を見せる。ほんのちらっとだけ。

 名前は、水瀬剛也みなせたけや

 階級は巡査部長。 

 それぐらいしか確認できない。

 所属や署名すら明かさない。

 本当はちっとも良くない。

 若い方はゆるくネクタイだけしめウィンドブレイカーを羽織っている。

 一切喋らない。


「何でしょう?」


 愛想良くも悪くもなくただ忙しいところを時間を奪われたといったていで応対する。


「とある盗難車を追っていまして、このスーパーに出入りしているという目撃情報がありまして店員の皆さん全員にお尋ねしているわけですが、、、」


 水瀬からは淀みなく流れるようにセリフが出てくる。

 明らかなに事前に作文した感じがする。

 まぁ全員に尋ねているわけだから当然か、とも思う。

 若い方はこちらの表情だけ見ている。

 

「これを見て頂けますか?」


 水瀬は内ポケットからプリントアウトされた画像の荒いA4の印刷用コピー用紙を出す。

 一瞬、息が止まる。

 画像はかなり粗い。

 近隣の防犯カメラを引き伸ばしたものだろう。

 だが、いつも遺体を運んでくる白のトヨタのハイエースなのはわかる。

 業務用のハイエースは日本で一番多く走っている業務用バンである。

 事実ハイエースに乗ってこのスーパーに出入りしている業者も多い。


「私、車のこと、よくわからないから、、」


 どのへんで誤魔化すか決められない。出たとこ勝負になる。


「車種は業務用のハイエースでして」

「こんなバンはよくここに来ますけど」

「色などはどうです?」

「白かしらね?シルバー?ねぇ店長?」


 丁度通りかかった店長の真壁に助け舟を求める。

 真壁は奥から大きな段ボールを持ちそのダンボールで顔隠しつつ答える。


「入沢食品さんところも白だったかな?塚越興業さんとこは日産のやつだっけ」


 そう答えると逃げるようにフロアサイドに出ていく。

 私は耳まで覆った防護ハットにマスクだ。

 目だけパチパチさせて刑事を見る。

 二人の刑事の渋いやや困った顔。

 明確な答えは従業員の誰からも得られていないらしい。


「この車だと確信は持てないわけですね」


 水瀬の語調がやや強まった。


「バンとか全部同じに見えるから、ねぇ」

「わかりました。このハイエースだと思ったら警察まで御一報いただけますか」

「はい、それは」

 

 これで打ち切り、ため息まじりに水瀬が礼も言わず踵を返した。

 背の低い若い方の刑事も無表情のまま去っていく。

 やおらして、お邪魔虫の同じパートの宇野うのさんが私に声をかける。


「刑事が最後に訊いたのは大牟田さんやね」


 警察は従業員全員に尋ね情報を得た後で私でをとったのだ。

 私は狙い撃ちされたのだ。

 死体の搬入は業務員が完全退出になってからだ。

 このバンを見ているのは私だけ。

 イコール、私が嘘をつけばそれは真実になる。

 その日の帰宅途中、赤信号で停車中に私は貰った二台目のスマホで連絡する。

 信号待ちの間にささささっと。


               20:24<P来。運搬車確認す>

               20:25<要、善処>

 <りょ>20:31


 こんなので大丈夫なのだろうか?。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る