アルコール度数0% スポーツドリンク、ノンアルコールビールなど

 私は呆けたようになってキッチンのテーブルに座り、TVを見ながらアルコールを分解するだけの塊になっている夫を眺めている。

 肝細胞が座椅子に座ってTVを見ている。

 リビングの低い机には発泡酒の500ml缶が二缶。

 私の目の前のテーブルには今日スーパーで余ったアジの刺し身がトレイのまま並んでいるが箸が進まない。

 作りすぎたと言って惣菜担当の藤田さんに貰ったポテトサラダも山盛りのまま。

 

「へっへへへへへ」


 夫の小さな笑い声が響く。

 TVの中で芸人が大いにスベってに笑われている。


 芸人には才能を。

 ADには労務管理を。

 Dには人間性を。

 Pには冒険心を。

 

 時刻は午後の10時過ぎ、背筋が寒いとおもったら窓を開けっ放しだった。

 春と秋は寒いのか暑いのかわからない。

 死体を切り刻んだあとはいつもこんな感じなる。

 人は誰もそんなに強くない。

 死体を切り刻んだら、罪を犯したらどんな気分になるか。

 全くあなたが想像したとおりの気分になる。

 自己嫌悪と自分がなにかに汚れてしまったような気分。

 中原中也ではないが、

 ”罪悪感に汚れちまった。”

 匂いに敏感になったり、人の視線が気になったりetc。

 普通の人の世界から完全に逸脱してしまった気分。

 社会の中には居る、だが警察がやってくるまでのことだ。

 単純に言えば、おかしくなる。

 警察に掴まるよりもっと怖いのはシンジケートからの報復だ。 

 真壁さんは言った。


『すぐ慣れますよ』


『すぐっていつですか?』


 尋ねたことはない。

 最初の頃は意味のない独り言をべらべら喋ったり、わざとそのあと洗濯や掃除をしたり忙しくしたりしたが、ほぼ効果がないことに気づきやめた。

 罪悪感を回避していること自体が苦痛だった。


 楽しいことを考えよう。

 私には計画がある。ここから逃げ出すのだ。

 この発泡酒片手にTVを見ている夫からに逃げるのだ。

 このパートで得られる収入はネットの世界にいくつもある暗号資産を経て完璧にマネー・ロンダリングされたあとスイスのとある銀行にドル建てで振り込まれている。

 犯罪者が求めるのはユーロでもポンドでもペソでも元でもない、ましてや残念ながら黒田総裁、決して円ではない。

 USドルだ。

 それしかないThat is the way ought to be

 またこの巨大なシンジケートから私は行方不明になっている同世代の女性の戸籍を得ておりその名義で旅券さえ持つことになるらしい。

 もしかするとその女性を処理したのはわたしかもしれないし、カネコさんかもしれない。

 そして私は大金をスイスの銀行の口座に保持したまま東南アジアのどこかに逃げる。

 高い円とドルを利用して、そこの金目当ての若い男を侍らして死ぬまで暮らす。

 最近では犯罪人引き渡し条約を批准していない国に逃げたとしても旅券を取り消され不法滞在で現地で拘束されて強制送還中に国内の航空機内で再逮捕されるらしい。

 シンジケートはぬかりなくそこまで手をうっている。

 私は日系ブラジル人のIDも持っているらしい。

 ブラジルの旅券もあるのだ。

 夫、大牟田淳おおむたあつしがふらつきながら座椅子を立った。

 もうこの男の汚れたパンツを洗うのはゴメンだ。

 発泡酒をケース買いするのもゴメンだ。

 電動アシスト自転車に跨るのもゴメンだ。

 なにより遺体を切り刻むのはもっとゴメンだ。

 私は、なにげなく夫の後をついていく。

 私も尿意をおぼえたのだ。

 今ここでトイレの順番で揉めてこの男を殺したたらどうなる?。

 大牟田淳おおむたあつしはトイレに入り小便。


 じょぼじょぼじょぼじょぼ、、、、。


 殺す価値もない。

 ただ置いていけば良い。

 もう十分に私は罪を犯している。

 大の大人を一人放置することは罪でもなんでもない。

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