アルコール度数37.5% ウィスキーなど。

 ここだけの話しだが、私はこのスーパーのバックヤードでパートの更なるバイトをしている。

 実はこちらのほうが本業よりも高額な報酬が得られる。

 無論、店長公認である。

 しかも無税。これも大きい。

 バックヤードと精肉部門ならではの仕事である。

 どんどん私の就労情報開示していくことになるが、完全に非合法な仕事である。

 人道的にはギリギリかもしれない。

 巨大なシンジケートが存在する。

 私、大牟田佳苗おおむたかなえは各種の生肉を切りパック詰めにして店頭に出し並べてているわけだが、なんと切っているのは食用の畜産物の肉だけではない。

 

 あまり詳しく具体的に書きたくはないのだが、、、、。

 

 大岡昇平風に書けば<猿の肉>である。

 さすが文学者うまい表現を使う。

 大岡昇平には安寧を。

 森鴎外には謙虚さを。

 夏目漱石には愛情を。

 菊池寛には高潔さを。

 坂口安吾には勤勉さを。

 

 私のしている行為は刑法上は死体損壊ならびに遺棄罪にあたる。刑罰としては3年以下の懲役である。

 よく、バラバラ殺人とかワイドショーで取り扱われるとその行為の猟奇性とか残虐性とかがテーマになるが殺人の行為は置いといて、ちょっと想像してほしい、あなたの目の前に死体があるとする。

 大きさは性別を問わず概ね1m何十cmで重さは60キロから80キロぐらいある。

 大雑把に有りていにいえば、かなり重いマネキンがあなたの前に横たわっているのだ。

 これが物理的な大きさとして重さとして扱い難いものであることは容易に想像していただけると思う。

 ましてや人の半分は私などのか弱い女性である。

 ハンドバックのようにちょいと気軽に運ぶことすらままならないだろう。

 で、、、、、。

 どうすれば扱いやすくなるか、、、、。

 書きたくもないし、書かないが、そういうことになるのである。

 業務用ライトバンが運搬してきて、私は誰もいないスーパーのバックヤードで精肉部門の全ての技能を利用してそれを切り刻み、超大型のトレイにパック詰めにしてまたライトバンにカートを利用して乗せる。

 私は県警の鑑識員よりもっと重装備の衛生状態を保ってすべての作業を行っている。

 私の食品衛生用のネット付き帽子、スモック、エプロンは毎日がっつり消毒洗濯されている。

 私の物理的に接触した証拠のDNAはほぼ残らない。

 布巾からこれら精肉部門のものは消毒され民間の検査会社に毎日提出されノロウィルスの有無のPCR検査を受けている。

 勿論PCRの検査結果はネガティブである。


 もう一つ、この業務がする理由がある。

 日本の優秀な警察組織である。

 日本の警察は優秀だ。

 間違いない。

 私がTVを見ている限り有能だ。

 多くの殺人事件が解決している。

 しかし、この有能な地方自治警察にも例外がある。

 死体が出てこなければ殺人事件にはならない。行方不明扱いになるのだ。

 悩みを抱えていない人など居ない。

 ここではないどこかへ行きたがる人も多い。

 逃げる人も多い。

 実は私、大牟田佳苗おおむたかなえも逃げようと思っている。

 

 パート労働者の身分から。

 犯罪者としての立場から。

 この激安分譲地から。

 この埼玉県から。

 この日本から。

 なにより夫から。

 

 私が手塩てしおにかけて育てた娘は神より正しいので、放っておいても平気だ。

 幼い折より惣菜と冷凍食品だけ食わせておけば風邪一つ引かなかった。

 この私の重大な逃走計画については追々おいおい書いていくことにする。

 つまり、死体さえきっちり処理できれば完全犯罪になるとは言わないがに相当近くなるのだ。

 私が非道無道なことをしていることは、私自身がよく知っている。

 実はこの仕事には前任者が居た。名前は伏せるべきだがどうせここから逃げるのだ、関係はない。

 カタカナにしておけば匿名性が維持されることを私はTVから学んでいる。

 カネコミズホさんだ。

 私は当時駆け出しの精肉部門のパートだった。

 ある遅番おそばんのシフトのとき、取り置きしておいた賞味期限切れの惣菜を取りにバックヤードに店舗からの業務員の完全退出時間を過ぎて取りに行ったことがある。

 真っ暗な廊下の奥に灯りがついていた。 

 完全退出時間を過ぎても業務員や店長が残っていることはままある。

 しかし、音が尋常ではなかった。

 

 どーん。

 どかーん。


 そう肉切り包丁を巨大な精肉用のまな板に全力で打ち付けるような。

 私は音に誘われて、ふとバックヤードの入り口から内部を見てしまった。

 衛生面では完全に防備しているものの白髪の頭に角のはえた鬼婆が肉切り包丁で素っ裸の少年の遺体を切り刻んでいるのを、、、、。

 この光景は未だに私のトラウマの一つになっている。

 眠りの浅いときに見る最悪の悪夢の一つでもある。

 そして、その鬼婆がしていたことを私が今完全に引き継いで行っているのである。

 これは悪夢ではなく、倫理観の崩壊もしくは精神崩壊である。

 人が持つ潜在的な恐怖の対象とは、もしかすると自分自身そのものではないかとさえ時々思う。


 私はバックヤードの両開きのドアを出てから周りに人が居ないのを確認し店長の真壁さんから受けた合図のとおりにのスマホに出てLINEを確認する。


 <運  火 50代男性。>15:10

                          16:48<精  りょ。>

 

 渡された二つ目のスマホにはあまり触りたくない。

 ネットで非合法ファイルなどを流している工学部の電算学科の大学生が創ったスクランブル機能で暗号化されているらしいが私は文系の高校でしか教育を受けていないのでIT関係はちんぷんかんである。

 火曜日におっさんの御遺体を切り刻みパック詰めすることになっているらしい。  

 私が死んでも天国に行くことはないだろう。

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